中山泰昌『難訓辞典』

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2020年1月末に消えるそうですが、移転先は未定です。

中山泰昌『難訓辞典』

中山泰昌

東京堂


まえがき

 当用漢字の普及によって、漢字習得上の労苦は、いちじるしく軽減されましたが、しかし、これで以て漢字に対する一切の負担が、悉く除去されたと思うのは早計でありましょう。

 われわれ今日の生活の根基となっている古来伝承文化は、漢字と極めて密接な関係がありまして、その因縁は一朝一夕に断ち切ることは出来ません。しかるに当用漢字だけの知識では、手近な姓氏や地名も満足に読むことは出来ぬ始末でありますから、まして上古中古文献を探究するといったようなことは、非常な困難を伴うのはもとより、昔は、女・子供の読み物であった草双紙浄瑠璃本、また明治大正昭和初期の小説すらも、完全に読むこと不可能でありましょう。元来漢字には、根本的に複雑な煩わしさがあればこそ、将来の学問や実務の世界への贈り物として、当用漢字が制定せられたのでありますが、それはどこまでも、今日以後に役立つ手形であって、過去世界に対しての通貨とはならないのであります。

 こうした事面倒な漢字の世界に、今一つ厄介千万な問題があります。それは、漢字固有の音・・義のいずれを頼りにしても、むことの出来ぬ言葉物名が、当用漢字の中にさえ無数に有ることであります。その中には、呉音唐音宋音、また延語約語略語縁語転訛斎詞(いみことば)等々で解読して見て、やっと合点のゆくものも多少はありますが、中には又、全然見当のつかぬ訓み方をするものが沢山あります。所がこれらは、訓み方が不明ですから、いきなり国語辞典に頼って引き出すことは出来ないし、漢字典に依るとしても、今の一般の漢字典?熟語中には、そうした類のものは殆ど挙げてありませんから、結局これらの言葉は、全く「辞典の捨児」であります。そこで此の捨児―「難訓」の言葉だけを拾い集めて、一つの辞典を作っておくことも、決して無用の業ではないと思いまして、この一書を編成したのであります。

 ただしこの難訓語のうち、「姓氏」と「地名」とは、切り放して一所にまとめた方が便利だと思いまして、これを第二部として別個に集成しました。また附録の「名数録」は、必ずしも難訓ではありませんが、その名数だけでは難解でありますし、これも一つにまとめて見ると、一種の節用的なものとなりまして、百科の知識を誘発する興味も多分にありますので、特に巻末に添えた次第であります。

昭和三十一年十二月五日

編者

この書に収録した言葉は、純然たる難訓語の外に

 呉音唐音宋音まれるもの

 古語延語約語略語縁語雅語斎詞いみことば仏教語・転訛俗訓仮字訳語音訳字その他漢名を和語に仮用したもの

等々、すべて漢字の音のみでは読み下しがたいものの外、一般に読みあやまり易いものをも広くとり入れた。

第一部を「一般語」、第二部を「姓氏・地名」としたのは、後者は説明を要しない、単純なものであるから、別個にまとめた方が見出しよいと思ったからである。

見出し語は画数別とし、同画数中では、同一文字を一所にまとめて配列した。

地名には、県・国・郡名、山・川・湖・沼名、また古称・古地名等もある程度採リ入れた。

姓氏・地名ー殊に地名には、町・村名、小字等に、珍名・奇名が無数にあると思う。この君には、それらを収録しきれなかったが、他日、これのみで大成したい念願もあるので、有る限りのものを委しく御教示下さらば幸甚であります。

地名は県別だけにしたが、ここに掲げた以外の県にも所在するものがあるかも知れないし、又、地方的の訛りで、清音濁音を誤っているもの、或はその他の訛りちがい等があるかも知れず、お気づぎのものを併せて御教示願います。

附録の「名数録」は、名数順に配列した。この類のものでは古く、貝原益軒の「和漢名数」・「読史備要」中の「名数一覧」(二十三頁)があり、当然相通じ、相似るべきものではあるが、前者の中には現代と縁遠きものが多いので、ほとんど採るところが無く、また後者のは、解釈不明のものが多いので、本書に採録したものは、多少手がかりとなる言葉を添えておいた。

書籍からの画像で注記のないものは、著作権法上の「引用」の範囲内であるか、著者の著作権が切れて刊行後五十年以上経っているものである筈です。