国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2012-03-25

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佐賀縣方言語典序

國語の統一が國民知識の進歩と思想の一致とに缺くべからざる要件なることは今敢へて多言を要せず、而して國語の統一は必ず教育の力に待たざるべからず。從って國語の教授が國民教育の主要なる事業なること亦明なり。然るに我國語の教授には特殊の困難あり、言語文字との關係、文章語口語との相異、方言訛音の辨別等が、既に普通教育の初歩に於いて兒童を苦ましめ、爲めに教育上幾多の障碍を來せることは、夙に識者の認むる所なり。近時國語教授の研究が教育社會の注意を惹き、是等の困難を去り、障碍を去らんとする方法を講ずる者、多く實際の教授に漸次進歩の緒を現はせること寔に喜ぶべき所なり。然れども、妄に新奇を競ひ、空論を弄び、未熟の考案を取って、直に教育上に實施せんとするが如きに至っては、其の危險極めて大なりとす。爲めに國民多數の子弟を〓賊し一國の言語文章を擾亂すること尠からず、國語制定の事業は一二の人の私案に依って輕々しく決すべきものにあらず、必ずや愼重の研究を遂げたる後に於いてせざるべからず。今や政府は國語調査の必要を認め、特に委員を設けて之に從事せしめたり。其の大成は假すに多くの年月を以てせざるべからず。是の時に當り、吾人教育者の務むべきことは、徒に一時の議論に惑はず靜に退いて研究を積むにあり。其の重要なる事項を擧ぐれば二あり。曰く現在の正しき國語を平易有効に教授する方法、曰く將來國語の制定に關する資料の蒐集是なり。

想ふに、地方々言の調査の如きは右の研究を成就する手段として最も有益なるものなり。然れども之を單に好事者一時の零碎的探求に止めず、集めて大成せんことは決して容易の業にあらず、佐賀縣教育會曩に佐賀縣方言辞典編纂して其の調査の一端を成し、今又佐賀縣方言語典を發行して之を完うせるは、地方語普通語との關係を明にし教育上裨益する所頗る大なるべきことを信ず。從來東北と九州とは一般に最も方言訛音の著しき地方と認めらるる所にして、是等の地方が皆特に普通國語の普及に力を盡くせることは注意すべき現象なりとす。而して佐賀縣教育會が其の事業として方言の調査を撰びたるは、最も適切の著眼たることを失はず、蓋し地方教育會は此の如き事業をなして、始めて眞に有効の機關たることを得べければなり。特に本書の著者は素養經驗倶に備へて自己出身地方の方言を研究せられたることなれば、其の成績の顯著なること期して望むべきなり。且つ本書は方言辞典の單に個々の言語解説せるに反して、方言品詞の性質用法規則等を説明したれば、其の用一地方に限らず、苟くも國語を研究せんとするものに參考の資となるものたることを疑はず、茲に印刷の成れることを聞き、其の擧を賛して一言を贈る。

 明治三十六年一月  岡田良平

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