国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2011-04-17

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阿女都千詞成立は、當時通用の假名を、一音につき、最も普通に用ゐらるゝものを取り集めて同音無き、四十八字を得、これだに記憶したらんには、口舌上の言辞は、自在に記し得らるべからしめたるなり。而して尚之を記憶するに容易ならしめんが爲めに、誰も知れる天文地理動植等の同音無き名稱、又は動詞、手爾乎波のたぐひを。つゞり合せたるなり。然るに、同音文字なくして、意義なき言の無きやうにせしものなれば、半過ぐるまでは、穏かに見ゆれど、それより下は困苦せしさまにて、勢ひ、對偶の快らざるものあるに至れるなり。さるを、先哲中、末のところ何とも解し難き由にいはれたれど、伊呂波歌などの如く、全體貫通の意味あるものと一様に見ては解し難けれど、一語一語はなれたるものと見ば。何等の障なく聞ゆるなり。そは、ユワとあるは硫黄のことにて、和名抄に、

  硫黄 和名由乃阿和俗云由王。

と見えたる由王なり。此の曲王をユワと呼ぷべきことは、この詞にユワとあるにても知らるべく、また、編者が郷國越後の下民は、今も附木の硫黄などを、ユワといふことなり。サルは猿なること異論はあるまじく、其の次なるオフセヨは、古語には、命令の意にも生育の意にも用ゐる例あれば、上の猿に縁みてならんには、兒を生ふし立つるとしても可なるべし。又其の次なるエノエといふことの、榎之枝の義なることは、新撰字鏡に、

 〓 衣乃木 榎 衣カ木 〓 衣の木 杪 比古江 秒 比古江

の如く、榎のエには、衣を用ゐ。枝のエには江を用ゐ、萬葉にも

 山葉左佐良榎壮士 佐散良衣牡士 麻都我延乃 多弖流都我能奇、毛等母延毛

など、榎と衣とを、音訓互ひに通はし、枝の意の假名に、必ず、延等の文字を用ゐて、常に衣榎等の假名と分別せるにて、天暦以上には、榎のエは、ア行のエとして衣の音假名を用ゐ、枝のエは江の假名に非ずば延等の音假名を用ゐて、ア行ヤ行のエを確然區別したることは、極めて明らかなればなり。又次なるナレヰテは、慣居而の意なることは既に動かすべからず。右の數語を、斯く解したる上にて、サル以下を引連ねて考ふれぱ、或は猿よ、兒をよく育てよ、榎の枝などの上に、慣れ居て」などの如く、猿に縁あるが如く、ほのめかしたる者と爲さば爲すべきなりざらば、強ちに、ユワ、サル以下解すべからずと言ふまでにも非るべし。畢竟諸先哲未嘗てアヤ二行のエの分別ありしを知らざりしより、同音の有るまじき、此の詞にして、エ文字の二つ有るを痛く怪しめるが上に、ユワの如き不解の語さへあるより、能くも考へず、爾か謂はれたるならん。但し前段に末の數句、猿に縁ありなどいひたれど、熟>思へば、サル以下は、さても有るべけれど、ユワの一言、其の意更に上下に連らざるは、如何にとの難は免かるまじ。されば、此の詞は、初めより、意義の貫通を以て主要のことゝ爲さで、唯初の程は、同じ文字なき語を求めて、得るがまゝ併列したれど、自然に對句の如くなりたるが、ユワ、サル、以下に至りて、次第に究し、遂ひに、かくの如くなれるにて、伊呂波、太爲爾の如く、強ひて意を属けんが爲めに、幼童などには、耳遠き語を用ゐたりしよりは遥かに優れりといふべし。今二言づゝの次第を逐ひて、其の意義を注すること左の如し。

 アメ天 ツチ地 ホシ星 ソラ空 ヤマ山 カハ川

 ミネ峯 タニ谷 クモ曇 キリ霧 ムロ室 コケ苔

 ウヘ上 スヱ末 ユワ硫黄 サル猿 オフセヨ生育セヨ

 エノエヲ榎ノ枝ヲ ナレヰテ慣レ居テ

かく、書き連れて見れば、現今の小學に於ける單語篇、讀書入門の類にして、全く上代に於いて、幼童に常用の假名を教ふる用に供したるものなること疑ひあるべからず。されば前にも擧げたる如く、宇都穗には、はじめにはをとこでにもあらず、をんな手にもあらず、あめつちとは見えけるなり

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