国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2011-03-23

松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(7) 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(7) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(7) - 国語史資料の連関 松尾捨治郎校註『あゆひ抄』おほむね上(7) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント


師曰、凡歌の詞、中むかしは上つよをうしなひ、中ごろは、中むかしにたがひゆき、近むかしよりはことに心得たがへることのみぞおほき(註一)。かく時にしたがひて、やう/\よみなり(化)たるけぢめをも、其條々にすこしづゝさだめとけり。いにしへ今のたがひめにはあらで、そのよみ人によりてひがよみしたるばかりのことをば、とりたてゝいはす。此抄ひとへにもとをあきらめむのこゝろにて、末をおさふるにいとまあらねばなり。

 又曰、早瀬さしくだすことはやすく、みを(澪)ひきのぼる(二)ことは、かたきわざにもあるかな。あはれいくばくのむかしならねど、歌のことば里言をあつること、梵經を翻譯せむがごとくになれるよ。五種不翻(三)のひとつに、摩訶は大・多・勝・のみつのこゝろをそなへたれば、譯しかねたなるに、ひとしきことすくなからす。いにしへの詞は心ひろくことわりつよくして、今、ひとつの里言にあてがたきもあり。その詞はた心かた/゛\にかよひ(四)ことわりさま/゛\にみだれて、古の詞にかなひがたきもあり。いにしへの[花がめ]は今の[花いれ]ぞといはんに、[花づゝ]。[花桶]・は[花いれ]にして、[花がめ]にあらず。これは、古は一すぢに今はさま/゛\なるがたがへり。又いにしへのふみは、今の状(書状)なりといはむに、ふみは文書をも消息をもさすべければ、古はひろく、今は一すぢ(五)なるいきほひことなり。此のゆゑに里言をあてたるうちに、うちききて、ここにはよくあたり、かしこにはさもあらぬやうにきこゆるもあり。よくあたれるはただ今、人のいふをきかんやうにおぼえ、さらぬ(六)は、かたくななる物いひのやうにきこゆるは、今の人の詞、立ゐ(七)たゞしからぬことのみありて、むかしにちかきこと。とほきこと・たがひに(六)あればなり。たとへばひるみたる人のかほの、よめ(夜目)にたど/゛\しきがごとし。しかればよくあたれりとおぽゆる里言も、くはしくおもひあてざれば、ふかき心はえがたかるべし。よくもあたらずとおぽゆるをぱ、こまかにおもひめぐらさば、うちぎきのよきよりも、いきほひ(勢)をしるにたよりなることもありなむ。


  註 (一) 成章は、和歌の變遷を次の如く六期に分け、之を六運と稱した。別に六運略圖といふ著がある。 一、上つ代(光仁まで) 二、中昔(花山まで) 三、中頃(後白河まで) 四、近昔(四條まで)  五、をとつ世(後花園まで) 六、今の世。

(二) 水脈を舟引き上る。源を明らめる意。

(三) 佛教梵語漢語飜譯するのに、飜譯しがたい者。五種類あるのをいふ。

(四) 一語に種々の意義を有する。

(五) 今ふみといふのは、書状だけをさす。

(六) あてた里言、即ち口語古言によく當らないのは。

(七) 變化、活用

(八) 樣々に。

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