国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2010-01-05

[]「東京にいる田舎者のこしらえた言葉だ」(永井荷風「十日の菊」「東京にいる田舎者のこしらえた言葉だ」([[永井荷風「十日の菊」]]) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「東京にいる田舎者のこしらえた言葉だ」([[永井荷風「十日の菊」]]) - 国語史資料の連関 「東京にいる田舎者のこしらえた言葉だ」([[永井荷風「十日の菊」]]) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

 「[...]電車の中で小説を読んでいるような女の話を聞いて見たまえ。まず十中の九は田舎者だよ。」

 「僕は近頃東京の言葉はだんだん時勢に適しなくなっで来るような心持がするんだ。普通選挙だの労働問題だの、いわゆる時事に関する論議は、田舎訛がないとどうも釣合がわるい。垢抜けのした東京の言葉じゃ内閣弾劾の演説も出来まいじゃないか。」

 「そうとも。演説ばかりじゃない。文学も同じことだな。気分だの気持だのと何処の国の訛だかわからない言葉を使わなくっちゃ新しく聞えないからね。」

 唖々子はかつて硯友社諸家の文章の疵累を指麺したように、当世人の好んで使用する流行語について、例えば発展、共鳴、節約、裏切る、宣伝というが如き、その出所の多くは西洋語翻訳に基くものにして、吾人の耳に甚快らぬ響を伝うるものを列挙しはじめた。

 「そういう妙な言葉は大抵東京にいる田舎者のこしらえた言葉だ。そういう言葉が流行するのは、昔から使い馴れた言葉のある事を知らない人間が多くなった結果だね。この頃の若い女はざっと雨が降ってくるのを見ても、あらしもよいの天気だとは言わない。低気圧だとか、暴風雨だとか言うよ。道をきくと、車夫のくせに、四辻の事を十字街だの、それから約一丁先だのと言うよ。ちょいと向の御稲荷さまなんていう事は知らないんだ。御話にゃならない。大工や植木屋で、仕事をしたことを全部完成ですと言った奴があるよ。銭勘定は会計、受取は請求というのだったな。」

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