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2007-10-29

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幸運のために

経済界の不況を伝えられ、また一般には生活難をかこつ者の多い大正十一年一月の中旬頃、何人の発信とも知れず、郵便ハガキに「好運のために」と題して、

「この葉書をご覧になれば、二十四時間内に葉書九枚で、貴方が好運を望まれる人にこの文句の通りを書いてお出しなさい。九日たてば大いなる喜びに逢います。もしこの連鎖を絶てば反対に大悪運が来ます。この鎖は米国のある士官が始めたことで、九度地球を回らねばならないそうです」(文句書き方が少々違っているのもあった)

と書いてあるので、悪運に襲われてはタマラナイと、おのおのが同じハガキを九人に出し、その九人がまた九人に出すことになって、しばらくの間に全国へ伝播したが、ついには警祭官が発信者を探り出して叱りつけたり、「幸福のためになどいう葉書が来ても取り合わないことになさい。迷信にとらわれてはいけません」などいう掲示を出すに至った。

この「幸福のために」の葉書が流行したのに乗じて、擬似の文句で、普通選挙制運動の宣伝文を出したり、商店が自家の商品を売らんとする広告文にしたり、また宗教宣伝の目的で、「家内安全のために――今年は悪疫が流行します。これを免れる法をお伝えします。弘法大師の作られたイロハ歌を紙に書いて仏壇に供え、南無大悲遍照金剛と二十一回唱え、またこの葉書を受け取った後二十四時間内に、この通りを葉書に記して三人以上の知人にお出しなさい。もしこれを守らぬ時は今年中に病難がありますぞ」という愚かなのもあった。

この「幸運のために」の葉書は、七、八年前に英国などでも流行したことであるそうだが、我が国にもこれに類した古い例がある。二、三寸の紙に大黒天が俵の上に立っている画像を印刷し、それに「この大黒天を北の方へ南向きに貼り、一枚を箪笥の引出しへ入れおき、願いが叶いし時は、この通りの大黒天を版におこし、二千枚すって二枚ずつ、千人に施すべし」との添え書きを付けて出すことが行われていた。

教育の普及した大正の今日、なお、かかる馬鹿げたことが行われたのは、無智蒙昧なるがためばかりではなく、遊戯的に行った人もあろうし、また古来迷信に囚われていた父祖の心性遺伝で、ただ何となく薄気味が悪くて捨てても置けず、損したとてわずか九枚のハガキだ、出した方が安心でよいとの理由、すなわち宇宙には、科学で説明のでき得ない神秘的摂理があるようだとの感じがマダ一般に失せないからであろう。

河出文庫

明治奇聞 (河出文庫)

明治奇聞 (河出文庫)

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