国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

間違い・不足などがありましたら、せせら笑って済ませずに、コメントを頂くか、よりよいものをどこかで公開なさっていただければ、幸甚至極です。

2007-10-21

「ハイカラ、成金、ゆる褌」(宮武外骨明治奇聞』) 「ハイカラ、成金、ゆる褌」(宮武外骨『[[明治奇聞]]』) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 「ハイカラ、成金、ゆる褌」(宮武外骨『[[明治奇聞]]』) - 国語史資料の連関 「ハイカラ、成金、ゆる褌」(宮武外骨『[[明治奇聞]]』) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

ハイカラ、成金、ゆる褌

「ある意味においての名物男、某なる者ありき。欧米における軽薄なる方面の流行を摸してただ到らざらんことを恐れ、その人目に新なる特徴として、元来短くできたる頸に、きわめて高き襟を着け、これがためにほとんど咽喉を締めて頤を突き上げられたがごとき痛苦と不便とを感じつつも、ひとえに外観の犠牲となりて忍耐し、己の足もとを見るべく要する時には、面を俯くることあたわざるをもって腰を直角に曲げ、背後より呼びかけられたる場合にも、頸だけ回らねば、くるりと全身の方向を転ずるの労力に甘んぜざるを得ず。かくて、その着くるところの標識たる高襟は、同時にその人格の浅薄劣悪をシンボライズするところの標識となり、『ハイカラー』の一語、よく彼を冷殺もし、時人の嘲笑の的ともなすに至り、さらに広布して、『ハイカラー』より転化したる『ハイカラ』となり、あるいは『灰殻』という宛て字によって変形せしめられ、あらゆる皮相の欧化者流を嘲笑する目的に供せられ、女性にしてその頭髪を洋風にする者もまた、『ハイカラ』の部類に編入せらるるを免れざるに到りたるが、広布の範囲の大なるにしたがって、これに含まるる嘲笑味もまた稀薄とならざるを得ず、いつしか『ハイカラ』の称呼が、これを受けたる者を傷つくる力を失うを致せり。しかも一面よりこれを見るときは、またこれ『ハイカラ』なる冷語のはなはだ有力なりしを証するものにあらずや。一時、株相場の乱調を利用して暴富を致したる者を、将棋の歩の金に成るにたとえて『成金』と呼び、また、ある一時、両国の本場所における力士が、正々堂々の角牴を避け、褌を緩くして敵の指し手を無効ならしめんことを試むるところの、卑劣なる計画の流行を来たしたりしより、『緩褌』の一語もって軟骨陋心の政客を冷罵するの目的に応用せらるるに到り、人をしてその婉曲にしてしかも痛切なるに感歎を禁ずるあたわざらしめしも、またこの類にあらずとせざるなり」

河出文庫isbn:4309473164

トラックバック - http://kokugosi.g.hatena.ne.jp/kuzan/20071021