国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2004-10-03

[]漢語の流行(『明治事物起原』人事部) 漢語の流行(『明治事物起原』人事部) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 漢語の流行(『明治事物起原』人事部) - 国語史資料の連関 漢語の流行(『明治事物起原』人事部) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント

 明治維新後、日常の会話に、漢語を使ふことの大流行を見しは、奇なる現象なり。思ふに、これ維新の風雲に際会してにはかに擡頭せる官吏は、多く月落ち烏啼いて的書生畑より出でし人々であり、その人々の使用語が、優越語標準と認められ、それを真似るのが天下一般の維新色を発揮せしにあらざるか。明治維新と同時に、神道を唯一の尊奉すべき標的とせるにかかはらず、使用語のみが、際立ちて漢語の多くなりしは、かかる因果なるべし。

 漢語流行は、ほとんど維新と同時に始まり、戊辰五月発行『都鄙第一号に、「此頃鴨東の芸妓少女に至る迄、専ら漢語を使ふことを好み霖雨に盆池の金魚が脱走し、火鉢が因循して居るなど、何の弁へもなく、言ひ合ふことゝなれり、……〓[魚條]に天誅を加へ、鮒に割腹させて、晩餐の周旋せん、閨中の事件は、我が関係せざる処なり、など、厨下の少女に嘲らるゝ、面白き時勢となれり、云々」とあれば、戊辰の夏すでに、京摂地方には漢語の流行せしことが明らかなり。

 同誌第二号にも、「仏蘭西人の話し、この頃、大政一新せる日本帝国の布令多くは支那の語を行ふが故に、民間に読む者甚だ少く、読んで其意を解せざる者、十人に八九人なりといふ」とあるとほり法令の文章、また漢語が多く、むつかしかりし。


    明治三年東京詞十首之一   大沼枕山

  唱出(ス)楓橋夜泊(ノ)詩、三絃弾裏寄(ス)2相思(ヲ)1、

  誰(カ)図(ン)孤客愁眠(ノ)句、却(テ)上(ル)佳人艶絶(ノ)辞、


 漢語の流行は、一年ましに盛んになり、四年版『語一真』など、漢語まじりの都々逸に、俗解をつけし本まで出て、その他、用文章類には、みな漢語の二字を冠し、それと同時に、漢語の字引書類はいふも更なり。『漢語独字引』などいふ銅版摺りの扇子、または『増補漢語早見大全』類の番付が、いく種か出でたり。

 四年版『流行』の前頭に、「詩入のどゝ一」「たいこ持の漢語」「お酌人の唐しせん」等をあぐるに至る。『興廃』流行の部に、「唐詩入どゝ一」を出せしも、その盛んを想はる。

 明治十年三月版『盛衰』の中、盛の部の第三段に、「商人の漢語」の一項あり、同十六年十月版『賢愚』の賢い方に、「漢語使はずに、俗言で渡る商売人」、明治七年刊『寄合』に、「当時は漢語ばやりで、漢語で言はずともよい事を、わざ/\漢語でいふ事で、墨田川と言へば誰にも分るを、墨江墨水など、云ひ、花見に行かうといふを桜花遊覧散歩などゝ出かける」。いま番付『増補漢語早見大全』の中央部だけを左に留む。



            行司

         勉強 規則 注意

    関係   管轄   区別   周旋

開店発売 原告人 被告人 豈図乎 遊手徒食 四隣合壁 降伏謝罪

裁判   捕亡  器械  布告  運輸   一新   事件 

            惣後見

  因循  本月  探索  方今  廃止


    勘進元      差添人

    文明     悔悟

    開化     奮発


  漢語   声競

いひ過したはこちらの錯誤、うたがひ晴れたに、もう泣く


  書生言葉 開都

松と云ふ字は開化のはじめ、公と木との女夫づれ

松と云ふ字は木へんに公よ、公がはなれりや木ひとり

大和言葉も開けて今は、漢語変りの君と僕



西戎東夷《せいじうとうい》と誹謗《そしろ》ろと何《なん》の私婦《わたし》が大切《だいじ》の好男子《いろをとこ》

はやし たでくふむしもすききらひ はれて らしゃめんになりたかろ



明治41年版にはこの記事なきか。

大正版*(17頁)では、

 明治維新後、漢語の使用一時大に流行し、日用文書に會話に、漢語を交へることになれり、されば漢語の字引類はいふも更なり、漢語の番付あり、漢語独手引などゝいふ銅版摺の扇子さへあり、今、〔増補漢語早見大全〕といふ番付の一部を左に留む。


            行司

         勉強 規則 注意

    関係   管轄   区別   周旋

開店発売 原告人 被告人 豈図乎 遊手徒食 四隣合壁 降伏謝罪

裁判   捕亡  器械  布告  運輸   一新   事件 

            惣後見

  因循  本月  探索  方今  廃止

    勘進元      差添人

    文明     悔悟

    開化     奮発

(音ととは全部之を省略せり。)


西戎東夷《せいじうとうい》と誹謗《そしろ》ろと何《なん》の私婦《わたし》が大切《だいじ》の好男子《いろをとこ》

はやし たでくふむしもすききらひ はれて らしゃめんになりたかろ

(明治四年版語一眞どゝ一の一頁、漢語流行の半面)

【参考文献

池上禎造漢語研究の構想岩波書店

松村明(1958)「明治以後の日本語」 『講座現代国語学ことばの変化』筑摩書房 松村(1977)に再録

松村明(1977)『近代の国語桜楓社 p200 松村明(1958)を再録 (索引石井研堂p119とあるは、p199の誤りなるべし)

松村明(1986)『日本語の世界日本語の展開』p314

土屋信一(2004) 『日本語学』増刊号

坪内祐三『文庫本を狙え!』晶文社?(2000/11)p63

森岡健二「明治期の漢語」「ことばシリーズ和語漢語

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