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1993-08-19

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遊子方言 ver2.0(オリエント用)

凡例

ver1で使用した架蔵の板本はほとんどが欠落していたので、今回は、土屋信一氏蔵本を使用させて戴いた。本書にも欠落はあるが、欠落部分等は勉誠社文庫本の影印をもとにして補った。

 土屋本は、改装本で、損傷しているが朱による書き入れなどが見られる。

 以下にその欠落部分を列挙する。

  序文表、上半分の欠落。

  二丁全体

  三十三丁以降(本文は三十三、三十四丁)

句読点は「。」と「.」とを本文の状態によッて分けて用いた。

濁点半濁点表記原本のままである。

促音「ッ」は表記を統一して「ッ」とした。

本文表記では「ン」は細字の「ン」である。

【】は単辺長方形の枠1.5行分の幅をとり、ほぼ章題の意味で使われる。

[]は単辺長方形の枠

{}は内部の文字が細字であるもの。ただし細字の行割は考慮していない。また、細字の列の中に更に細字がある場合は、{}を重ねた。

()はルビルビは該当する熟語の直後に付した。1ウ1行目「色男(いろ)」は「男」の部分にルビが欠けている事による。

§は謡かかり

踊り字仮名は「ヽ」「ヾ」漢字は「々」二文字以上のものは「/\」とした。「%\」は濁点つき繰り返し。

Wは王

Hは者

Bは者゛

Pは者゜

hは盤

Eは江

〓1 は魚に庸

〓2  昔 鳥

〓3  しんにょうに麦=違

〓4  鹿に子

〓5 云に白

「郎」は本文で「良」と見なせる略字を用いた部分がある。崩し方から判定して「良」と「郎」のかき分けを行った。

[通り者]の「り」は細字の送りであるが、[]の中は通常書体で記載した。

序は丁付けを欠く。

丁付けの後にある算用数字は、勉誠社文庫本の頁数である。

勉誠社文庫本68頁、31ウ2行目「宵(□い)」はルビ「よ」欠。版木の欠落か。同定の手がかりになるかと思うので注記する。950808土屋信一氏蔵本には「よい」とあるので改めた。

序文漢文部分は次に定める凡例による。

原本送り仮名は{}で囲みカタカナで記した。これは送り仮名が細字で書かれている事による。また、本文では「ッ」を用いたが、序文では他の送り仮名との統一を図った。

送り仮名合字は《》で囲んだ。

Rは雁がね点。

算用数字は番号点。

ルビは()で囲み、原本表記カタカナであるが、送り仮名との混同を避けるためひらがな表記した。

_は訓読熟語を、-は音読熟語を表す左傍線線、中線を意味する。

>はその前の一文字訓読である事を表す文字単位の訓読記号意味する。

表記の順番は、ルビ送り仮名訓読記号の順である。

以下本文


3

遊子方言

花{ノ}美多{キ《コト》ハ}則_多{シ}矣不R若2花-街花{ノ}

之美{ニ《シテ》}且{ツ}情{アルニ}1桃李雖{ヘ《トモ》}2然{ク}_美{也ト}1不R言ハ不

語{ラ}牡-丹海-棠雖{ヘ《トモ》}2然{ク}_艶{也ト}1不R笑{ハ}不R歌{ハ}

此_花{ヤ}也不2唯{タ}_能{ク}言-語笑-歌{スルノミニ}1其_色

4

一{タヒ}過{レハ}R目{ヲ}則奪{ヒ}R精{ヲ}蕩{カス}R魂{ヲ}其_香一{タヒ}觸{レハ}

R鼻{ニ}則飛{シ}R心{ヲ}斷{ス}R膓{ヲ}加_旃(しかのみならず)霜露{ニモ}不R凋

風-雨{ニモ}不R摧{ケ}取{レトモ}R之無{ク}R禁{スル《コト》}用{トモ}R之不R盡{キ}

春-秋晝-夜莫3時{ト《シテ》}不{ト云《コト》}2芳-菲1奚(なんぞ)_爲與(と)2

艸木{ノ}花1同{センヤ}1榮枯{ヲ}哉艸-木{ノ}花{スラ}猶_且{ツ}

5

賞R之{ヲ}况{ヤ}於{ヲヤ}2此_花{ニ}1乎北-州{ノ}之遊>{ヒ}ひ嗚_

呼樂{シヒカナ}_夫因{テ}_以{テ}序{ス}

        田舎老人多田{ノ}{爺}>謹書

 [印]人生 [印]一楽

花の美多きことハ則多し、花街の花の美にして且つ情あるに不若、桃李然く美なりと雖ども言ハず語らず、牡丹海棠然く艶なりと雖へども笑ハず歌ハず。此花や唯た能く言語笑歌するのみにあらず。其色一たひ目を過れハ則ち精を奪ひ、魂を蕩かす。その香一たひ鼻に觸れハ、則ち心を飛し腸を斷す。加旃(しかのみならず)霜露にも不凋、風雨にも摧けず、これを取れども禁すること無く、これを用ども盡きず。春秋晝夜時として芳菲せずと云こと莫し。奚(な)んぞ艸木の花與(と)榮枯を同せんや。艸木の花すら猶且つ之を賞す。况や此花に於をや。北州之の遊ひ嗚呼樂しひかな夫因て以て序す

        田舎老人多田の爺謹書 

[印]人生 [印]一楽

6

目録(もくろく)

發端(ほつたん){付{り} 友(とも)の出會(てあい)。舟(ふね)の中(なか)。堀(ほり)の様子(やうす)。土手(とて)。大門口(おほもんぐち)。}

中(なか)の町(てう)

夜(よる)のけしき

宵(よい)の程(ほど)

更(ふけ)ての体(てい)

しのヽめのころ

1オ7

發端(ほつたん)

小春(こHる)のころ柳(やなき)Bしで三十四五の男(おとこ)。すこしあたまの

Hげた。大本多(おほほんだ)大びたい。八端(Hつたん)がけと見へる羽織(Hをり)に。

幅(Hヾ)の細(ほそ)き嶋の帯(おび)むなだかに。細身(ほそみ)のWきざし柄(つか)まへ

少(すこ)しよごれ。黒羽二重(くろHぶたへ)の紋際(もんぎハ)もちとよごれし小袖(こそで)。

あゐ着(ぎ)ハ小紋無垢(こもんむく)の。片袖(かたそで)ちがひのやうに見へ。いろの

さめた緋縮緬(ひちりめん)のじゆBん。Hきにくそふな。幅(Hヾ)びろの

ひく下駄。やまおか頭巾(つきん)かた手(て)に持(もち)。鼻紙袋(Hなかみふくろ)ハなしと

1ウ8

見へ。小菊(こきく)の四ッ折(おり)すこし出(だ)しかけ。我(Wれ)より外(ほか)に色男(いろ)ハ

なしと。高慢(かうまん)にあたりを。きろ/\と見まハして。あてど

なしにぶら/\と行(ゆく)むかふより。二十才(Hたち)Bかりの人柄(ひとがら)

よき柔和(にうW)そふな子息(むすこ)。Wきざし立派(りつH)に黒縮緬(くろちりめん)の

綿(Wた)入羽織(Hをり)。五ッ紋(もん)しろ/\と。丹後嶋(たんごしま)の小袖。した着(ぎ)ハ御

納戸茶(おなんとちや)縮緬の両(りやう)めん。琥珀(こHく)じまの袴(Hかま)。なかぬき草

履(ざうり)をHき。供(とも)にかゐきの風呂敷(ふろしき)づヽみと生花(いけBな)をもたせ

扇子(あふき)かさして来(きた)る

2オ9

[通(とう)り者(もの)]{これ/\}色男/\[むすこ]{いやこれハ}どふでござります此

間先生(せんせい)と御噂(おうハさ)申ました[通り者]先生ハさへぬハ{ゑ}/\

おまへどこへ行(いき)さなる[むすこ]私(Wたくし)ハ本所邉(へん)へまいります[通り者]行(いか)ねバならぬ事か何(なに)しに行(いか)ッしやる[むすこ]伯

父(おぢ)きの。病氣(びやうき)でおりまして。見舞(みまい)にさんじます[通り者]伯父(おぢ)

病氣ならバ。ぐつとながしたいWい[むすこ]なぜでござります

[通り者]あんまり。つがもない。よい天氣(ひより)じやによつて。正燈

寺(しやうとうじ)とくらWせよふとおもふ[むすこ]なるほど私(Wたくし)も正燈寺

2ウ10

{ゐ}ハ参(まい)りたう御(ご)ざりますが。行(いつ)て来(き)て本所へ参(まい)ら

れませうか[通り者]行(いか)れます/\。そして。本所ハ大流(おほながし)

に。ながしてもよしさ[むすこ]何(なん)にもせよ参りましよ

[通り者]そんならぐつと。供(とも)を帰(かへ)しがよかろ{を}あれが行(いつ)た

とても。紅葉(もみぢ)がおもしろくも。なんともないWさ。それより

ハ。内へ帰(かへ)つてゐた方(ほう)がらくだ。角平(かくへい){な}すとんだ通(とう)り

者(もの)か {これ}色男(いろおとこ)Hかまを/\[{供}角平]それとも御用がご

ざらバ。参(まい)りましよふか[むすこ]{いや}行(いか)ずともゑい帰(かへ)つ

3オ11

て。いをうにハ。あなたに道(みち)で御目(おめ)にかヽつて御同道(ごどうどう)申

正燈寺へまいるによつて角平(かく)をバ帰(かへ)しますかならず

御あんじ被成ますな[供]かへる[通り者]{あヽ}ゑい。これで大(おほ)

きにゑい。舩中(せんちう)にてだん/\。つもる物(もの)がたりがある

おしい色男が。埋木(うもれぎ)となるによつて。だん/\おれが傳

授(でんじゆ)で。善二坊(ぜんじぼう)のやうな色男を。揚巻(あげまき)の助六がやうに。つ

くり直(なを)さにや。ならぬこヽハ。みんなが乗伊豆屋といふ

舟宿(ふなやど)だ。毎日(まいにち)おれも乗所だ。こつから。のろ{を}かみさん

3ウ12

猪牙舟(ちよきぶね)。ちよつきり。ぐゐづくり。Hやく出しとしたい

Wい[舟宿(ふなやと)の女房]{Hい}御出なされませ。猪牙舟ハござり

ますが。{も}一艘(そう)なんとやら。おつしやるふねが。ござりませ

ぬ[通り者]{いやさ}猪牙舟Bかりてよしさ[女房]どつち迄(まで)

で。こさります[通り者]どことハどふだ。堀(ほり)さ/\[女房]{かしへいづる}

{船頭(せんどう)ハ今(いま)かへりて。やすもふとおもふて舟をかしへ付てゐる}[女房]{これ}五良どん太(たい)ぎながら{も}

一艘(そう)こいで下(くだ)され{よよ}{これさ}どふぞ。さしつたか[五良]どふも

仕(し)やせんが。Hらが。へり。やした。Hらも。へるHづで。ござりや

4オ13

す。松さきへ上下を二どこゐで。堀{ゐ}も二Hい。あけて。来(き)や

んした[女房]そんなら茶づけ一Pい。かきこんで。Hやく

行(いつ)てください。いそがつしやる[{通り者}/{むすこ二人}]{舟宿のみせよりもふ舟ハできた

かと。くWへきせるにていづる}[女房]{きのどくそふなかを}ちと。おまち被成て。くだされ

ませ船頭が。みんな出(で)Hらいまして。よう/\只今(たヽいま)かへり

ました船頭が参(まい)りますが。大(だい)ぶ。Hらが。へつたと申て茶

漬(ちやづけ)を。たべて参ります[通り者]そりや。とんだ事(こ)ッた

[女房]さやうで御座(ござ)りますけれど。汐時(しほとき)がよう御座り

4ウ14

ますから舟ハ。たちまちで御(こ)ざります[通り者]そん

なら{ま}一ふくのみましよ○{と。いふて待(まつ)うちに。まへの河岸(かし)へおどり子(こ)二三人のりたる。やね

舟がつき。男三四人あかれバ。通{り}者ハたHこの。のみやうに。おもいれありて。其ふねから。あがる人ハ。みなしつた顔のやうな。見へをして

物をいひかけられた。そふな顔(かほ)にてゐる其中に年ごろな。ぢヾいが。黙礼(もくれい)して行(いく)}[通り者]どいつもみんな

おれがしらないやつだ。あん中(なか)にしつた顔なやつハ。たつた

二人(ふたり)Hッちやない[むすこ]今おまへに。じぎして。いッた。達

者(たつしや)そふな。ぢヾいハ。折ふしこヽらで見る人じやが[通り者]

あれハおれが久(ひさ)しい。ちかづきだ{やぼな}ぢヾい{さ}。ありや

5オ15

鎌地(かまち)屋本次郎といふ。ぢヾいだ。跡(あと)のにた山。本

多(ほんだ)の。いきに見へる。やつハ翌助(よくすけ)といふやつだ。あいつハ

おれを。しつた顔(かほ)して。いつたが。おら。つゐど。あッた

事(こと)ない。兎角(とかく)おらを。しつた顔したがる人のあがるを

見るにつけても。Hやく行たいどふだ○{河岸から}[船頭]{さあ}おめし

なHりやせ○{二人ハさあと。いふて舟に乗}[船頭]舟をおし出(だし)ておくん

なHりやせ○{女房二人をおくりふねおしいだす}[女房]御(ご)きけんようおめし

被成ませ○{舟ハ大川へ出る}[船頭]おたゐらにおめしなHりやせ

5ウ16

[通り者]{これ}色男猪牙舟の乗(のり)やうから傳授(でんじゆ)しまし

やう猪牙舟といふものハ。あぐらをひッかき。うしろ{E}

ひぢかけの。首{くび}うなたれの。たBこ。Pく/\とくらh

せねB舟がこぎにくゐ{まず}船頭がうれしがる{これ/\}

此おかの。むかふが{それ}身(み)をする一瓢(いつひやう)が内だ{いや}かれこれゆッてゐるうちに。かんじんの相談をワすれた正燈寺

へハ。しよせん行(いか)れないによ。貴様ほんに正燈寺へ行

と。おもつていたか[むすこ]{あい/\}正燈寺へハいかさま{もふ}

6オ17

おそふ御座りましよ[通り者]{さあ}其事(こ)ッた。しよせん

正燈寺とハ。かりの名。よし原へ。行(いこ)ふといふかねて

たくんだ腹(Hら)だ。吉原へ行(い)ッても。よからうが[むすこ]{あい}

Hやく帰(かへ)りさへすれバ。よう御座ります[通り者]行(いく)から

にや。Hやいの。おそのいのと。いふこつちやない。おれと行(いく)と

いふと。堀(ほ)ッてもHやく帰(かへ)られぬ。やぼな。やつらと行(い)ッ

たと。ちがつて格別(かくべつ)おもしろい。其Hづだ。吉原中

の太鼓持(たいこもち)ハもちろん。其外みんな轡(くつW)の通り者や

6ウ18

何(なに)かヾ。おれが行といふと来(く)る。此中もきかつしやい

来(く)る者(もの)に事かゐて。釣瓶(つるべ)そばの。むすこまで来てしや

れる。{こりや}大ぶ舟がおそいハ。やう/\首尾(しゆび)の松じや

ないかの[船頭]首尾の松ハ。よつぽと跡(あと)に通り過(すき)

やした[通り者]なるほど。よつぽと来た{あ}こヽハ。此君(きみ)

山ぶしが河岸だ[むすこ]此君山ぶしとハ。なんの事ッて

御座ります[通り者]これに段々(たん/\)。こうしやくの。ある事(こつ)

た。吉原ハ男ぶりよりも肝胆(こんだん)がかんじんだといふ

7オ19

事がある。此河岸に八十Bかりになる。なで付(つけ)がある

が。これが此君と大きに色事だそれゆへに此君が客(きやく)

ハ。みんな皆無(けいむ)ぶつPらッて。きれたほどのこんたんしだ

それを。おれがむかふへまハして。たび/\色事をしたが

おれも。ワるくすると叶(かなハ)ない事がある。それに付(つけ)ても。

あつたら色男が。形(なり)や作(つく)りが。どふもさへぬ。吉原へ

Hいる形(なり)じやない。とかく吉原ハ黒仕立がよい。髪(かみ)が

とんだやぼた。どふぞ{もう}五ぶほど。ねをあげて。Hけ

7ウ20

さきをすつと。ひつこきとしたい。額(ひたい)を{もう}多(おほ)く

の事ッちやないが{もう}五六ぶ。ぬきあげて。とうぞ形(なり)や

何(なに)かを。ゐきに。さつしやい。そして。會(けい)へちッと。出る

やうに。したい[むすこ]{あい}新交(しんこう)が會の時にちよと。ま

いりやした[通り者]新が會の時にや。おら行(いか)なんだ。

すべて此ころハ。通り者が會をながす。それでおれが

せんども蔵前(くらまへ)の弁魚(べんぎよ)に川崎(さき)屋の雷同(らいとう)が所でみん

なが。ゐたによつて弁魚に。そふ。ゆッた。是(これ)からハ會を

8オ21

みんなが。流(ながさ)ないHづだ。何(なに)をいふも。みんなが。せにのなひ

しよゐだ。銭がないといへバ。おれが丸角(まるがく){ゐ}あつらへて。お

ゐた。花がん袋がある。とんだ。ゐきな。きれだ。小Hぜ斗(Bかり)

弐分ほどに。當(あた)ッてゐる。きれハ。阿蘭陀(おらんだ)のむしろをり

貴様。見ると。ふるへ付ほどな。きれだ。おれが銭のある

時に。あつらへて置(おゐ)た。丸角の亭主(ていしゆ)が。おれと心やすい

によつて。いつでも亭主にあつて。あつらへる亭主

も。じよさいハなけれど。いそがしゐによつて。とかく

8ウ22

丸角ハ。ながい。されども十日ほどの内にこしらへて。や

ろうと。ゆッた。其内に皆無(かいむ)銭がなくなつたに

よつて。三十日ほどに成が。今に取にいかん貴(き)さま

いつそ。かWないか出来てゐようから[むすこ]{そりや}どふ

ぞ。私(ワたくし)が買とう御座ります。どふぞおまへつれ立(だつ)

てゐッて。おくん被成ますまいか[通り者]{おヽ}つれ立て。い

こ/\貴様たBこ呑(のみ)ゑないの[むすこ]{あい}さやうで

御座ります。どふもたBこを。呑(のま)んハワるいもので

9オ23

御座ります。それで此間ずいぶんたBこ。のみなら

をうと存ます。たHこ入も。こしらへとう御座りま

すから。どふぞ。つれ立ッて御出被成て下されませ

[通り者]たHこ入ハ堀安で見て置(おゐ)た。とんだ{いや}よい

さらさがある。それを。こしらへ。さつしやれ。堀安めも

おれと一(いつ)しよに行と。すとんだかけねハ。いヽゑない

きせるハ。どふしても住吉屋がゑいによ。とんた能(ゑい)

かたがある[むすこ]せんど折太夫に。あいやした。とんだ

9ウ24

大(たい)そうなきせるを見やした。それに小田原町とやら

新場(しんB)の人とやら来てゐやした夫(それ)も。とんだ大そうな

で御座りやした[通り者]折太夫といふハなんだ[むす

こ]義太夫をかたる[通り者]{うう}なるほど{いや}おれがもの

ずきハ。又ちがう。なんでも住吉屋をよんで{まあ}是(これ)

からハ。なんでもおらが内へ来(き)さつしやい。そつちへ手

紙がやりたい事があつても。どふもやりにくい。若(Wか)

ゐ者(もの)を。そヽなかすやうで。名(な)にしおふ。おれが事(こつ)た

10オ25

から。どふもしにくゐ。貴様表(ひやう)とくがあるか[むすこ]{あい}

どうぞ。おまへの字(じ)を取てお付被成てくだされませ

[通り者]そんなら。おれが番(Bん)町の番の字を取て番

景(けい)とつけよ。後(のち)にや。おれがやうに。方々(ほう%\)から番景様{ン}

/\といふやうになろ。夫(それ)につゐて。Hなしがある此中も

中の町の松屋の見せで。おれが。どんで。きれゐな。形(なり)で

もちろん。ふとぎせるで。たBこを呑(のん)でゐると。その

そばに浄瑠璃(じやうるり)をかたる東洲(とうじう)が来て。Hなしてゐる

10ウ26

と。さる内の奥(おく)座敷の女郎が東洲にあだつゐた

おれに。あだつきたい。けれど。おれにハ。おそれて居(ゐ)て

おれハ。此くらゐな。うハ氣な。ものだと。いふ事を。しら

せたがつて。何(なに)が色/\な事をして。其うへて東洲

に。ぬしの名(な)ハ。なんと。ゆッと。そつときゐて。すると

東洲がぬしの名をおしりなんせんか。番町さんと

申やすと。いふと。番町さんと。いヽたそふな顔(かほ)で。

つんとして。これに御出(おいで)なんせへといふて。立(たつ)てゐッた

11オ27

客(きやく)が来(き)たそふで。そこで。今夜そこの内へいつて

新造(そ(ママ)んぞう)かいとして。夜ふけ人しづまつて。其女郎

が所へ。しのびこみの。くどかずとも。じきに。そふいふ

調子(ちやうし)だによつて。直(じき)に出来る。出来るといふと。しよ

ての。新造に引(ひき)かへて。三ッぶとんのうへ。ひそかに茶(ちや)

づッたり何(なに)かして。腹(Hら)一ッPいに女郎ぶちころしの

しのヽめ。さつと明(あけ)Wたる時分(じぶん)まで。ゐて帰(かへ)る。なんと

きつい色男の筋(すじ)じやねいか。おらが吉原ハみんな

11ウ28

そふした事だ。{これハ}埒(らち)のあかない舟だそ。{いや/\}よう

/\着(つく)そふな[船頭]どこへおあがりなさりやす[通り

者]{ほんに}そふだ。け。一川屋にハ勿論(もちろん)かりがあり。吉野や

の。きやつめハ。うぬぼれで。いま/\し。どこにしよふな{それ/\}

此ごろ逢(あつ)た。山本ハ。まだおれを大臣(だいじん)とおもつてゐる

舟宿がある[船頭]どこへ。つけます{ゑ申}[通り者]そん

なら山本の。さん橋(Bし)へつけろ[船頭]山本屋/\

[山本や]{Hあ}どなたかお出なさつたそふな。{と。さんBしへ出むかう}これハ

12オ29

おめづらしい。お出て御座ります。おあがり被成ませ{ああ}

こッちらへ付れバよいに[通り者/むすこ]{いや/\}こちらてもよし

/\。{と。つつとあがる}[山本や]一ぷくまづおあがり被成ませ○{通り者むすこ

二人ともにこしをかける}[山本や女房]{よふ}お出被成ました[山本や]あなたハ番町

さんといふおかた。せんど朝(あさ)。水道橋(すいどBし)まで。めしたお客

だ[通り者]これからハ心やすく。来(き)やんしよ。かみさん。H

けさきが。そヽけハせぬか見て下んせ[山もとや女房]{いゑ}なんとも

御座りません[通り者]手(て)のごひを。ちよと。あつい。ゆで。し

12ウ30

ぼつて。ください[やまもと女房]Hい[通り者]手(て)のごい。おれがやろ。{と

あさぎの手のこいを出し。ゆでぬれたるを取しぼりて顔をふく。髪(かみ)きハを大事にふく}ぐつと。これで心持が

よくなる。ふか.しやらんか。とふもやぼな形(なり)だぞ[むすこ]{さあ}

参りましよ。{と。ふたりハ出てゆく}[通り者]{さあ/\}いそぎましよ/\

[山本や][同女房]{申}明(めう)あさおより被成ませ[通り者]{さあ/\}まあ

土手(どて)へ来(き)た{これ/\}こちらだよ。こヽの。うちにも功者(こうしや)と。ふ

功者がある。こちらを通(とう)ると。かくべつ。ちかい。これハ土手

が大(だい)ぶ。さみしいWい。{こ}。Hなの。さきへ。つBきを。つけ。さ

13オ31

つしやい/\[むすこ]なぜへ[通り者]{いや}なせでも。つけ。さつ

しやい。今におもひしる事がある{それ/\}もふ来たぞ

[むすこ]{ほんに}おかしな。匂(にをい)で御座ります[通り者]こりや

死(し)びとをやく。匂た。じやが。土手で。かげバ。死びとの

匂も。ゑゐ。ものじやないか。今夜ハ大(だい)ぶ土手が。永(ながい)

やうだ。{と。いふて。しやんと小づまを鳥(とり)かぶとと。上るりを。功者(こうしや)らしき声(こゑ)にてかたる}まだ。いけんを

いヽ残(のこし)た事がある。うたを。ならうげなが。同じ事なら

うたハ。よさつしやい。今やぼな。侍(さむらい)がうたをうたう。河

13ウ32

東(かとう)ぶしを。ならハしやい。おらが内{Eハ}雅十Hじめ段(だん)

次も筆次良も。来(く)るもんだから。誰(たれ)に。ならをうも

すきだ。それに河東が。此ごろハ聲(こゑ)がかれて。おらが内へ

来(き)てねてゐる。それに筆次良ハ弁(べん)四郎と改名(かいめい)した

これも會の。たくみが。あるから毎日(まいにち)来(く)る{いや}通{り}者

に。なると此會Bかりも。うるさいものだ。摺物(すりもの)Bかり

も。大(でゑ引)ぶ。たまつてゐるぞ。そうこう。いふうちに是(これ)

ハ。衣紋坂(ゑもんざか)。やつPり。こヽハ古風(こふう)にこヽで。ずいぶん。衣(ゑ)

14オ33

紋を。つくろうがゑい。時にこヽから。しづかにして

いかふ。どふも人が見ると。みんなが来(き)て。あんまり。そ

う/\しくなる。今夜ハしつほりと。手まへと。おれ

と。たつた。二人(ふたり)で。あそぶ事に。し。よ。{といふうちに大門をHいりて。Hて}

こう。さみしくてハ。どふも。ならぬWい。茶屋ハ。どこ

に。しよふ。あんまり。しつた所が。たくさんだから。どこ

へ。いかふも。目うつりがする。それにおれハ茶屋を

定(さため)て行が。きらいだ。そこハ何(なに)屋だのうれんを。見さ

14ウ34

さッしやい[むすこ]小田原屋といたして御座ります

[通り者]{あヽ}又が所か{ゑヽ}あゐつハ。おれがいッたら嬉(うれ)し

がろ{さあ/\}Hいりましよ/\。{と。づつと。Hいれハ茶屋ハ女房ひとり座敷にゐる}

かミ様{ン}どふで。ございす[茶屋女房]{あい}お出なんし。おあがり

なんし[通り者]あがりましよ/\。{と。づつと。あがり。見せのまん中へ大あぐらにて。すハる

大ぶ今夜ハ。しづかだの[女房]{いゑ}まだ二階(かい)にお客(きやく)

が御座ります[通り者]いつでも。にぎやかで。ゑい事だ

の。ひさしぶりで。こヽの内へハ来(き)たぞ。{といへども。女房ハ何かしぢう。Wからぬ顔にて}

15オ35

[女房]ぶしつけ。ながら。おまへ様ハ。おみワすれ申しいん

して御座りますが。あなたハ。となた様で御座りま

した{ね}[通り者]{これハ}どふだ{これハ/\}いかに久敷(ひさしく)こない

とて。見Wすれた顔(かほ)ハ。ねいハ。しかしそふだあろ。久し

ぶりだから。御亭主(ごていしゆ)にハ。折りふし途中(とちう)であうが

成ほど内へハ久しぶりだ{そして}亭主ハとつちへで

御座{ゐ}す[女房]今日ハ江戸へ参りました[通り者]

{ああ}今こヽを出て。いつた人ハ。だれだ[女房]{あれハ}筆(ふで)

15ウ36

次郎様{ン}で御座ります[通り者]{あヽ}筆か。{なぜ}おれを

見て。見ない。顔(かほ)して。いくしらん。成ほど/\ゆふべ

おらが所へ来(く)るHづで。こないによつて。それで見ない

顔したそふな[女房]{ゑヽ}ゆふべ。あなたへ参るHづで

御座りましたか[通り者]此ころハ河東が来てゐる

に。よつて。咄(Hなし)に。こうと。ゆッた。それに。筆がこないに

よつて。ゆふべハ龍千(りやうせん)が来て。俳諧(へいけい)で。夜(よ)をあかした

○{此間盃すヽりぶた酒出て女房がさし圖にて吸物出る}今日(けふ)も河東が来(き)て。ねて

16オ37

ゐッたから。吉原へ行。あゆBないかと。ゆッたれB。

ぶしやうなやつ。吉原よりハどうぞ。ねてゐたいと。

ゆッて。いッたけ[女房]河東様ンハ。ゆふべから。こッち

へ。来(き)てヾ御座ります[通り者]河東が。{と。きもをつぶしきのどくそふな顔

にて}Hて。それハ。いやな事魂〓5 (こんPく)じやないか○{女房hあいそを

つかして勝手へ立つんとしてかまハぬ}○{臺(だい)所にハ男ともが}[茶や男]おかみさま。あれh

何(なに)か。おかしなもので。御座りますぞへ。大(たい)がいにあいさつ

をして。おかへし被成ませぬか。[女房]{おヽさ}おれも。そふ

16ウ38

おもふよ。何(なに)にしろ。だんなが。帰(かへ)ら。しやつたらゑゐ

やうに。さつ。しやろ。{まあ}それまでハ。かまハずに。おか

つ。しやい。もし又。つとめの。請合引(うけあいひき)なら。かならず

さつしやるな。おらハ。二階(かい)の客人(きやくしん)の方(ほう)へ行から。平(ひら)

さんと川(かW)さんが。御座ッたら{あの}ふたりをバ。中の

まへ。置(おゐ)て。おれへHやく。しらさつしやゐ。{と。いふて二かいへ。あがる}

[むすこ]こヽの女房ハ。あまり愛相(あいそう)が。よくないじや。ござ

りませぬか[通り者]されバ其事ッた。ぜんたい。つきの

17オ39

ワるい内だ。何(なに)かしつても。しらないよふな。顔してゐる

こヽへ今よい女郎が来(く)れバよいに。こふしてゐる内に

しやれて。やろうもの。{と。見へをいろ/\いふたりしてたBこ。Pく/\とのみゐる[客平(ひら)くる]

{男ふり大きく。人柄(から)よく。合びんにて黒羽二重のあたらしき小袖黒縮緬五所紋白%\と鼠(ねすみ)縮緬のあゐぎ。きれゐに。大きな声(こゑ)にて}

亭主ハ{もふ}帰(かへ)られたか○{臺(だい)所より若(Wか)イ者(もの)かけ出て。かの通り者むすこにも。かまハず。とんで

出る。ひやうしに。通り者の足に。ワかい者の足がさハる[通り者]ぞんざいな。野郎(やろう)めだ○{ワかい者ハごめん被成

ませともいWず客人平(ひら)にむかい}[ワかい者]御出あそBしましした[平(ひら)]{おヽ}二階(かい)へ

とをろうか[ワかい者]ちとおまち被成ませ。{と。通り者とむすこにむかい}おまへ

17ウ40

様がたハ。中の間(ま)へ御出被成て被下ませ[通り者]どこでも

吉野木/\{これ}色男。こつちへ。来(き)のめ田楽(でんがく)/\

{と。しやれを。いふ}[ワかい者]{盃もち出客人平のまへE出して}大分おをそう御座り

ました[平]御亭主ハまだか御内しやうハ[ワかい者]只今

二階におります。おまち申ておりました。Hやく。さやう

申ましよ[平]大分いそがしそふだな[通り者]{これ}色男

みせの客を見さつしやい。あいらかふられずB。ふら

るヽ者(もの)ハ。あるまいじやないか{あヽ}いふものを見て。おいら

18オ41

を。見たら。女郎の心でも。ほれるHづた。{と。高慢をいふてむすこに見へをいふ}

[女房]{二階よりおり見せへいで}大ぶおをそふ御座りました[平]そふ

で。あッたであろ。今日(けふ)同役(どうやく)の所で少し祝儀(しうぎ)事で

呑(のみ)かけ山と。して。ゐたらバ。亭主の見へられて。あつ

た。[女房]さやうで御座りましよ。今日(こんにち)のハきふな

御用のお文(ふみ)そふで御座りましたによつて。外(ほか)の者(もの)

でハ。間ちがうと申て。自身(ししん)に持て参りました。それ

でも。お目にかヽりまして。よふ御座りました。川様ハ

18ウ42

御出被成ませぬか[平]これも大かた見へやうが。御亭主

も{もう}帰(かへ)られ。そふなものじや。尤(もつとも)これハ虎(とら)の門(もん)の方(ほう)へ

よるといふ事であッた[女房]{Hい}さやうで御座ります

いつでも虎の門へよりますと。永(なが)ふ御座ります。せん

ども。よりまして虎の門の御客(おきやく)様ハ此方へお出なんし

たのに。帰(かへ)りませんで。直(すぐ)に品川E参りまして其朝(そのあさ)

ゆるりと帰りました。しかも。其Bんハ。いそがしい

Bんで御座りましたのに。帰りませんから。帰りますと。

19オ43

大きに。ふり付て。やりんした[平]んまいな/\。そふし

た。実(じつ)な女郎に。あいたい。ものじや[女房]山さんがあら

ほど実なうへに其やうに。なんに被成ます[平]されB

其事じや。あゐつも。氣(き)のしれぬやつじや。ずんど実

な。やうでもあり。又何(なに)やら。おかしなものじや{いや}此やう

な事。いWずと一Pい呑(のみ)ましよ[女房]一ッおあんなんせ

{といふてHじめる}[平]{これハ}きつい小盃(しやうHい)な。今日(けふ)一日。よつてハ。ゐ

るけれど此やうな小盃でハ。少(すこ)し。くす。ぐッたい。やう

19ウ44

じや。例(れゐ)の大物(たいぶつ)を/\[女房]さやういたしましよふか

{といふて。女房ハ。勝手(かつて)へ。盃。取に立すいものをいヽ付る客人(きやくじん)平。大分酔(ゑう)た風情(ふぜい)にて扇子Pち/\ならしゐる}[通り者]{むすこにさヽやきて袂(たもと)の内より何かとりて}これ。かみさん/\。ちよッひら。あいたい/\[女房]{Hい}なんで御座ります。取込(とりこみ)まして。ろくに。おかまいも申ませぬ。[通り者]かまハずとも吉野葛(よしのくづ)。{これハ}

せ左衛門(ざゑもん)なれど。久(ひさ)しぶりで来(き)た。しるしとか。なんとか。いふ

やうなもの。そつちへ。しまつて。翁草(おきなぐさ)[女房]{Hい}これハ

{と。Bかりにてたヽんとする}[通り者]これ/\まだ用がある。松葉屋の染之介

20オ45

を。きヽに。やつて下(くだ)さい[女房]{のみこまぬかほ付にて}Hい{といふてしあんし}Hい

染之介さんハ。おWるう御座ります。さつき。むかふ

の内にお出なんした[通り者]{Hて}どこに。しような。丁

子屋にしようか[女房]角(すみ)町に。しんみせが御座りま

すが。お出なんして。ごろうじませんか[通り者]角町ハさへ

まい/\{むすこにむかひて}かの。色事の所へ。いこふか。{あヽ}しんぞふ

買でハ。氣がつまるぞ[女房]{まあ}どこぞ御相談被成

て。御(ご)ろうじませ[通り者]なんにもしろ。挑灯(ちやうちん)付(つけ)さして

20ウ46

くんなさい[女房]{Hい}とれぞ。おともしやれ。{といふうちみせの客人(きやくじん)盃をまつ}

[平]大物(たいぶつ)ハどふじや/\[女房]{あい}只今もつて参り

ます{といふて大盃もち。きたる[平]{さあ/\}これじや/\。{と。ぐつと引うけのむ}[通り

者]行くべし/\。{と。むすこをつれふたり庭(にハ)へおりる}[女房]明(みやう)あさ。およりなん

し[通り者]{あい}あすも。もし。ふらバ。ぶんながしの。久しぶり

で。ゐつヾろうも。しれやせん。諸事ハ。今夜の女郎の

腹(Hら)にある事。と。{いヽながら。むすこを少し。さきに。たてヽ行}[平]{ハ。此始終(しじう)を見てゐて女房にむかい}ても

大(たい)そふな髪じや。所謂(いWゆる)本多ふうじやの[女房]{あいさ}

21オ47

さやうで。御座ります。何(なに)かしれぬ事Bつかり。おつ

しゐんすから。あいさつが。しにくう。御ざりんす[平]{いや}

時(とき)にこよいハ。氣(き)をかへて。見る。つもりじやぞへ[女房]

なせで御座ります[平]{いやちと}新町邉(へん)に。見そめた

のがある。これへ今夜ハゐて。ちと。たまにハ。もたせる

も。面白(おもしろ)かろうでハ。ないか[女房]なんさ。それハ。およし

なんし。私共が大てい。なんぎ。いたす事じや。御座り

ません。せんども。ちよッと。江戸町まで。お付合で。お出

21ウ48

なんしたのさへ。大てい。やかましかつた。事でハ御座り

ません{あれ/\}そふいう内。新ぞう衆が。おむかいに。お出

なんした。そうで御座ります[平]おれハ。かくれるぞ/\

[新ぞう]{申/\}Wッちを見て{なせ}にげなんすへ[平]{いや}

にげハ。いたさん。公(こう)のおむかいに。出たのじや{さあ/\}あがり

たまへ/\[新ぞう]{あ。も。}せハしのう。おざんすハ。{といふてこしを

椽(ゑん)に半分。かけておちそふにしてゐて}おかさんに。おゐらんで。おッしやりんす。ひる

ほどハ。ゆるりと。おめに。かヽりんして。おうれしう。おざん

22オ49

す。平(ひら)様ン。お出なんしたそふで。おざんすのに。なぜ

Hやく。およこし申{シ}なんせん。おうらみで。おざんす{と口上いヽしまい}

なせ人をよこしなんせんへ[女房]{あいさ}どうで。さハッて

お出なん事を。そんじておりんすから。{まあ}ゆるりと。

そふ申て。あぎんしよと。おもふて。おりんした。それに

つゐて。おHなしが。御座りんす。さッき{ね}平(ひら)さんの

おッしやりんすに。よ。{と。客人の顔を見ていWふとする平ハ最前(さいぜん)よりも酒よほどまハり

大げんきとなりうたい声(こゑ)にて[平]さやうな事ハ舩中(せんちう)にてハ。申さぬ

22ウ50

事にて候[新ぞう]{ても}大きな声(こゑ)だぞよ[平]声が大き

いかな。§{うた}大きなものを。持ながら。新ぞ。買(かを)とハ{HH}

{Hヽ}これハ/\。さし合じやの/\。とやかく。いWふ

よりハ。Hやく。ゆかふでハ。ないか。今宵(こよい)ハ。名代(めうだい)じや

に。よつて。Hやく行(ゆき)たい[新ぞう]ぬしや大ぶ氣がなを

り。なんした{ね}[平]{いや}名代にハ。ふかい。意味(ゐみ)のある

事じや。Hやう。いこう/\[女房]お吸物(すいもの)をお吸

なんして。お出なんし。御膳(ごぜん)のしたくも。いたして。おき

23オ51

んした[平]{いや/\}中/\飯(めし)所でハない。Hやく参り

たい。{と。いふて。草履(ざうり)を。片(かた)ちんBにHき。かけ出しそうにする。拍子(ひやうし)に大きな。鼻紙袋(Hながみふくろ)。おちかヽり。背(せ)の紋所(もんところ)も肩(かた)さきへ。まハり。挟(Hさ)み帯(おひ)のとけたを結(むす)びながらにてかけ出る。新ぞう袖を引とめ[新ぞう]いつでも。いヽ出(だ)さッしやる

と。せWしない{まあ}まちなんし[女房]Hやく。おちやうちん

を。付ろ{申}おざうりが。ちがいハ。いたしませんか[平]草

履(ぞうり)どころでハない。Hやく行たい。{と。とかくかけ出す}[新ぞう]まち

なんし/\。{と。いふてひつそい行}[ワかい者]此挑灯(ちやうちん)ハ。ワるい。{と。みせまで持(もつ)て来(き)た

挑灯を。又おくへ持てゆきそふにする}[女房]{はら立顔にて}Hやく。行(いか)ッしやいな

23ウ52

夜(よる)のけしき

いつのまに。峯(みね)の松風(まつかぜ)かよひ来(き)て。いづれの緒(を)より

しらべ初(そめ)けんすががきの。軒(のき)をならべてひくふねよ。

泊(とま)りさだめぬ河竹(かハたけ)の。流(なが)れても身(み)ハすみた川(がハ)

むかふの人/\。尾張屋(おWりや)に人。こんな/\。二帖(にぢやう)の

紙(かみ)を持(もつ)て。来(き)さッしやゐな。いッけずるい。Hやく。来さッ

しやゐな。緑(みどり)どう/\と。いふハ友(とも)よぶ愛らしき禿(かぶろ)

の声(こゑ)。Wゐら狂(くる)ふて斗(Bつかり)ゐずと。座敷(さしき)へ。うせあがら

24オ53

ないか。すかない。がきどもだぞよ{引}ハ。やり手(て)なるらん

猶(なを)もすがヾきの音(ね)にうかれて。五ッの町をめぐり

いづれ。あやめと見れバ。昔(むかし)を友(とも)とする顔(がほ)に歌書(かしよ)を讀(よめ)バ。後(のち)の月見に逢(あい)そめ見そめと声(こゑ)高(たか)くよむ。

箒(Hうき)を立(たて)てまじなへバ。畳算(たヽみざん)に待佗(まちWび)び。来(きた)れる

文を巻(まき)かへせば。送(おく)る文を封(ふう)じこなたより視(みれ)バ

かなたより覗(のぞ)く。白眼(にらむ)あれバ笑(Wら)うあり。物(もの)やおもふと

見れハ。さヽきて悦(よろこ)ぶ。緑(みどり)の柳腰(やなきごし)。紅(くれない)の下緒(したひも)いろ/\

24ウ54

行こふ人そヾろなる中に。けしからぬ声(こゑ)の按摩(あんま)Hり

鮨賣(すしうり)が鯵(あぢ)のす{う}〓1(こHだ)のす{う}と呼(よぶ)も。しやれとやいハん

義太夫ぶしハ頬(ほう)を押(おさへ)てかたり。江戸ぶしハ行儀(ぎやうぎ)に行(ゆく)

二人三人(ふたりみたり)友(とも)どち左右(さゆう)へ別(Wか)れ。さぞや嘸(さぞ)/\さぞ今

ごろハと諷(うた)ひ。巻舌(まきじた)にて。こッちらへ廻(まハ)りやれ/\と。

睦敷(むつまじき)ハ。其邉(そのほとり)の人かと見ゆ。温飩(うどん)。蕎麦切(そBきり)。汁子

餅(しるこもち)。雑煮(ぞうに)のあんBい。よき。キの字屋(じや)の名(な)も高く。彼(かの)

〓2(かさヽぎ)の橋(Hし)ならず。白(しろ)きを見する名物(めいぶつ)ハ山屋の軒(のき)の水(みづ)

25オ55

にすむ。ゆかりの月やすがヽきを。まだひく四ッの拍子(ひやうし)

木も。それかあらぬか駒下駄(こまげた)の。音に色めく。あり

さまハ。実(まこと)に夜の錦なりけり。

宵(よい)の程(ほど)

{大勢つきそい。挑灯三張にてHしこを上{ル}新ぞう客の後に付}[新ぞう]Hしごをバ。しつかに。お

あがりなんせ[客]{よほど酔ている}心得ました[新ぞう]{こハ}Hから

しうおざんす。人の座敷でおざんす。こッちらへ。お出

なんし[客]又せまい所へ入るのか[新ぞう]{なに}せまい所じや

25ウ56

おざんせん。せんどおまへの酔(よい)なんした所でおざんす[客]

{あの}おくのか[新ぞう]{あい}おくのでおざんす。Hやくお出なんし

{と廊下(ろうか)を行と。方々(ほう%\)の座敷より名をよび誰(たれ)さん/\といふ客うれしそふな顔見ゆる}[舟宿][茶屋]これで

まづおめでたふ御座ります。御座敷も定(さだま)りました

[客]全体(ぜんたい)こよひハ。おれ。ひとりじやによつて。此座敷が

よいでハないか[舟][茶]さやうで御座ります{此うちに盃てうし硯ぶた

吸ものや。くWしやたHこ盆いづる}[女郎やの若ゐ物]旦那(だんな)一ッ召(めし)上られませ[客]

{さあ/\}座が〆ッて面白(おもしろ)くないでハないか{なんと}此ふたで

26オ57

まハそふでハ。ないか[みな/\]よふ御座りましよう[客]

とかく。おれBかりが。いつも呑(のみ)かぶだ。おみよや。お秀(ひで)

を。呼(よび)にやらんか[茶屋]只今参るHづて御ざります

[客]今夜ハ後(のち)にハ大ぶ賑(にきやか)に成ろうぞ。さッき道(みち)で

呂州(ろしう)に逢(あふ)た。これも来(こ)よふといふた。それで今夜

ハ藤兵衛を呼(よば)ん。こヽがおれが粹(すい)じや。呂州が来て

ゐるに藤兵衛に。うたWせるハ。互(たがい)におもしろくない。

よつて呼(よB)ん[茶屋]成ほど万事に。あのやうにお心が

26ウ58

お付なさる[舟宿]{あい}左様さ[茶屋]私ハちよッと。行(いつ)

て。さんじましよ[客]{まま}そんなら一盃のんで.行(いき)やれ

今の盃を帰しもせいで。[茶屋]また私ハふせります

[客]{Hて}ねたがよい。しかし。其やうな事で酒ハのめる物

でハない。{さあ/\}ワしも呑(のもふ)ぞ[新ぞう]もし{E}もふ。それ

切で.かならず呑(のみ)なんすなへ[客]これハつれない。事じや

[新ぞう]おゐらんで。いヽなんすにハ。かならす上(あけ)申なといヽ

なんしたに。よつて。留(とめ)申さにや成んせん[客]{Hて}こま

27オ59

つた。ものじや{と。いふ内に五六人ざハ/\と来て。すハりながら口/\に[新ぞう]御亭(ごて)さん

御出なんし。兄(あに)さん。どふなんした[客]{これハ/\}うつくしい

ぞ。{これハ}いかい事。客ひとりに。むこ八人じや。賑(にきやか)で。どふも

いへぬ面白(おもしろ)う成た{さあ/\}君(きみ)たち{ちと}呑(のみ)たまへ{あ}どれへ

さし上やうやら[新ぞう]Wつちに。差(さし)なんせ{と。引うけうまそふに

のむ所へ}[やりて]{来る}{いや}のみなんすの{といふて。客に。むかいて}御出あそBし

ましたか。すッきと御足か御遠(とふ)く成なんしたの[客]{いや

これハ/\}かヽ様どふじや/\一ッ呑たまへ/\{茶屋をよびひそ/\いふ}[茶屋]

27ウ60

{これ申}御しうぎが。御ざりましたぞへ[やりて]{HHHヽ}お有

がたふ御座りんす。私ハ{まあ}行ッて参りましよ[新ぞう]

今のお盃。あぎんしよ○{此所へ。臺の物。菓子。重箱のふたを。とれバ。あたヽかそふな物

方々より持来る}[客]{さあ/\}これほど。御肴が出た。おさへます/\

{いや}おみよお秀{いやあ}呂州(ろしう)丈(ぢやう){さあ}御出/\{なに}今

の盃ハ{こふ}おまハし/\[かふろ]兄(あに)さん。其三みせん

箱(Bこ)。あちらへ上てくんなんし{あれ}御亭さん。くるひなんす

な{あれ}よびんす{おう/\}[みな/\]旦那ハ大ぶお酔なさつた休(やす)ませ申たら。よかろう

28オ61

更(ふけて)の体(てい)

{女郎さし合名だい廻り部や}[平]{あヽ}今夜も又。此やうなせまい所へ。とう/\

入られた。いッその事ねようぞ{あヽ}酔もさめるあぢな

心持に成た。{と。夜着半ぶん程着て。ねころび。ね入もせずにね入たやうにしてゐる。新ぞう。けちな。三味線にて

ぽち/\とひく客目のさめた顔}[平]{うう}う{これ/\}三味線をひかずと。こヽへ

H入てねたまへ[新そう]{いヽゑ}こうして置て。おくんなんし

又しかられんす[平]其やうな。大きな声をするから

ワるい。こそ/\と。ちよッと。{といふて手を取て引Hる}[新そう]おがみん

28ウ62

すにへ{引}{と。むきに成ていふ。しかたなく。手をHなし。しBらく腹のたつ。おもいれ有。すつと立て。帯を〆なをし。かしこ

まり。しあんをして居る}[平]{これ}さッきの。どこへか持てゐッて。しまッた

花がん袋と。羽織を持て来てくれろ[新ぞう]どう

なんすへ[平]帰る[新ぞう]今ごろ。つゐど帰りなんせん

に。なぜ帰りなんす[平]{いや}もふ七ッ過でもあろ[新ぞう]

{いや}まだそらほどでハ。おざんせん。今におゐらんで。お出

なんす。ぬしの。いヽなんすにハ。必(かならず)ちよッとでも。ぬしを。いご

かせ申なと。いヽなんしたから。いごかせ申事ハ。成{い}せん

29オ63

じつとして。ゐなんし[平]今に来るか[新ぞう]たッた今

お出なんす。氣を短(みぢか)くせずと。もちゐと。ゐなんし

[平]{でも}あまり。おもしろ。ないぞ今来るか。{と。またよこになる}

【隣座敷(となりざしき)】客(きやく)ハ田舎(いなか)座頭(ざとう)。女郎ハ新ぞう。たWいなくねてゐる手を打ても。たれも来(こ)す。ひとり。ごとに。あヽおもしろ

く。ない事だと。たHこ盆(ぼん)を。いぢりゐて。七ツを打て。よほど過るに。さきから。おこすが。とかく。埒(らち)があかん。と。いヽ/\枕をほち/\

Hぢきながら}[座頭]{これ/\}おきなさい/\。大事がある/\

枕もとへ火を。こぼした。おきなさい/\[新ぞう]{こハ}なんだへ

{と。ねむたそふなこゑ}[座頭]何にもせ。ちよッと。おきなさい[新ぞう]{おきて}

29ウ64

よく。いびりなんす[座頭]宵(よい)から大体(たいてい)おこした

こッちやない{もう}七ツ半でもあろ[新ぞう]{ひやうぶをおしあけ

方々のやうすを見るふりあり}もふ夜が明(あけ)たそふな[座頭]{いや/\}まだ

夜ハ明(あけ)ん。七ツを打て。半時ほどた[新ぞう]おまへh

見なんせんからで。おざんす。とふにからりと。明ん

した[座頭]でも。まだ烏(からす)が。なかん[新ぞう]{座頭の。あたまくらWす。まね

をして口のうちにて}ゑヽ。すかんといふ[座頭]{きヽ付て}何が。すかねへ

[新ぞう]隣(となり)座敷(さしき)の。客人の事ッて。おざんす。いつそ。も。

30オ65

しやれて。どうも。すきんせん

【隣座敷(となりざしき)】[通り者]{これ}新(しん){や}どこへいッてゐる{これ}新/\

[新ぞう]なんで。おざんす。あんまり。其やうに。大(おう)たBに

いッて。おくんなんすな[通り者]{あの}さッきの。むすこを

おこして。きて。くれろ[新ぞう]今きなんす○{むすこねむた

そふな顔で。来る}[通り者]色男どふだ。とんださへないしやない

か。[むすこ]{Hづかしそふな顔で}どふも。ねかさないで。何かねむふ御

座ります[通り者]そりや。とんだ仕合だ。此しん

30ウ66

なんざ。宵(よい)にちよッきり。頬(つら)を。つん出したまヽ。や

う/\今に成ッて来た。{もふ}吉原も。ふたヽび

ないWい/\[むすこ]又あさッて。お出なさんせかい[通り

者]なぜ[むすこ]ワたしや。あさッて。約束(やくそく)いたしました

[通り者]すとんだ事ッたの。おそろしゐWい/\。こヽの

内ハ。とんだ。ワるい内だによ○{むすこが女郎ハ部屋持にて。よほど人がらよき

女郎にて。ねむたそふにしんぞうと。ならびゐて}[部屋持としんぞう]すかん。{といふてにらめる][通り者]これ

新や。茶づらせろ[新ぞう]何(なに)けづらせろとかへ[通り

31オ67

者]{これさ}そんなに。しやれずと。Hやく。持て来やな{のう}

色男{ちつくり}茶づッてゐこじやないか。[むすこ]{あい}

よう御座りましよ[部屋持]もうお帰りなんすのかへ

[むすこ]あい[部屋持]もちッと。ゐなんせ。まだHやう。お

ざんず[通り者]{もし}ワたしをB{なぜ}とめなさんせん[部

屋持]おまへをバ。ぬしが。とめなんしよから。ワたしがとめ

申さずと。ようおざんす[新ぞう]{なに}すかない。ぬしの

やうな。ものを。とめ申。もんで。おざんすか。Hやく出て

31ウ68

ゐきなんせ。夜があけんす[通り者]此新ハおれをば

人間(にんげん)じやないと。おもふそうな[新ぞう]その新が宵(よい)

から。すかなくて。なりんせん[通り者]それハ。そふと

奥(おく)座敷の女郎衆に。ことづけをしてくれたか。[新

ぞう]{あい}そふ。もうしんした。なれバ。ぬしや。そんな。お

かたハ。しらんと。いヽなんした[通り者]{Hて}にくヽする

の。それでも廊下(ろうか)座敷の女郎衆ハ。よもや。おれ

を。ワすれハせまい[新ぞう]{あい}これも。さッき{そう}申

32オ69

んした。なれバ。おまへの小ように。いきなんすとき。

あとから。見てゐなんして。そふいヽなんした。どう

も。おもひ出されないと。いヽなんした[通り者]さすれハ

爺(ぢヽい)に成ッたか。何事もさへぬ/\。只々帰りましよ

/\[新ぞう]{Hてさて}も{ちゐと}お出なんし。おまへが帰り

なんすとワッちや死(し)にんす。{と。いヽなから廊下へ送り出ル}[むすこ][部屋持]

{あとへ残り。ほち/\Hなしをしてゐる}[通り者]色男きたないぞへ/\

[新ぞう]人の事に。かまハすと。早(Hや)く階子(Hしこ)を下(を)りなんし/\

32ウ70

しのヽめのころ

【隣(となり)】[平]{あヽ}やかましい。宵(よい)からの口きヽが。やう/\

出て行そふな。さッきからも。くヾりのあく音(おと)で

大ぶのぼせた[名代の新ぞう入かハり。馴染の女郎]おしつけ奥(おく)

座敷(ざしき)に替(かハり)んすと。此やかましいが。よくなりんす。夫(それ)

までが大体(たいてい)のくろうじや。おざんせん[平]Hて扨(さて)

宵から。あらほど。おれがゆつて聞(きか)せる通り其様(そのやう)に

に。氣が。よハくッて成ものか。新ぞうを出すほうハ

33オ71

とふ成とも。おれがしてやろう。今の座敷のほうの

事Bかりじや。それもおれが様子しだいで。どう

ともしてやろ[女郎]さりとハ。おうれしうおざんす

{といふていろ/\おもしろき事有}おまへのやうな客人が{もう}一人あると。ワた

しや大体。ゑゐこつちや。おざんせん[平]{Hて}氣(き)の多(おほい)

やつの{と。つめりてあぢな身有}[女郎]ほんに。ワッちや此ころハ夜も

ひるも。ねられんせんが。今宵(こよい)ハ宵の客人が帰(かへ)ッ

てから。おまへの所へ来(きゐ)んしてから。心がとけて。よく

33ウ72

ねんした。それでも宵(よい)におまへの機嫌(きけん)のWるふ

おざんした時にハ。いつそ。こWう。おざんした。今度(こんど)

から。どうぞ腹(Hら)を立て。くんなんすなへ[平]{もう}腹ハ

立ん/\おゆるし/\。時に{もう}おれハ帰らふ/\

[女郎]{まあ}もちッと。ゐなんし[平]{いやもう}夜ハ明(あけ)よう

そこを。ちよつと明て見てくれな○{女郎れんじを明る夜ハ明Hなれたり

きもをつぶし}南無三寶(なむさんぼう)さッきから烏(からす)がないたろうが。ち

つとも。氣がつかなんだ。{高(たか)い声(こゑ)にて}若(Wか)い者/\Hやく

34オ73

はきものを下Eやつてくれ。扨も/\{あの}茶屋め

が七ッに。むかひをよこせと。いふて置たものを今に

むかいを。よこさいで[女郎やの若ゐ者]さきほど。おむかひに

参りました[平]扨/\これハ。{と。帯〆るうちに又もからす一どきにかあ/\}[女郎]

かならず後(のち)に昼(ひる)まつたゐいんすにへ[平]{いや}どふもかへ

りが。おそいから。がッてんがいかん。さりながらどうぞ

こよふ[女郎]そんなら。ワッちや中の町までハ参り

んすまい[平]そこ所でハない{あヽ}おそく成ッた/\

34ウ74

[女郎]かならずお出なんせへ{またからすかあ/\}心しらずや

明(あけ)の鐘(かね)

以下勉誠社文庫本で増補

丁付なし。便宜上、35オ~36ウとする。

35丁表・裏は罫、半丁ごとに四分轄、各罫の上部に書名著者名。ほぼ中央に「全」 以下三行ないし二行にわたり解説文

以下の翻刻では、書名著者名等、各罫の中央より上の記載を一行にまとめた。下部は行割本文の通り。

36ウ の『遊子方言叙』と『美地の蠣売』は上下に組まれている。

35オ

南閨雑話(なんけいざつハ) 全 夢中山人著

日本橋より品川へ二里高輪

十八丁大師河原目黒帰りの

手引とする宿のうがちなり

かよふ神(かみ)の講釋(こうしやく) 全 通野意氣著

女郎ハ客をあやなさず客ハ

やくそくを間〓3ぬぞ是神国

の色男正直のかみなり

格子戲語(かうしけご) 全 振鷺亭

先生夫子の家語に比し

て通りものヽ家語にして

やぼにやWからぬ唐人のねごと

自惚鏡(うぬぼれかヾみ)全 振鷺亭

そも/\此本一度見る輩ハ

ぞつとしてなにとなく{ヲヤ}

35ウ

記原情語(きげんじようご) 全 蓬蕩通人著

あまねく女郎と客のいき

ぢおもむきを弁じたる高論

女郎買Bなしなり

俗談諺種(ぞくだんことワさくさ) 全 

此書ハ浮華淫話(ふかいんW)に

ふける者の為に儲(もうけ)

たる教訓の近道也

年中日記 小本

日々天気模様要用

を留置のちの心得

になる本也

稽引 小本

連狂誹其外おほへ

書を留置のちに

Wかりやすき本也

36オ

目録 板元 江戸堀江町四丁目 多田屋利兵衛

廓(くるハ)の大帳(だいてう) 全一冊 山東京傳

まつさきの茶Bんに丁字屋

世界をとり組ちよつと

ひやうし幕のうHさ咄なり

婦美車紫〓4(ふみくるまむらさきかのこ) 全 再刊

諸所色里の風俗意気

方をたづね所かHれB

品川の穴をさがす

廓中奇譚(くハくちうきだん) 全 再刊

全盛の君がまことに辻

君の情をまじへて うちん

につりがねと云たとへに同し

36ウ

辰巳(たつみ)の園(その) 全 再刊

深川のさハぎにハ氣を天井へ

あげきせる閨中のこんたんにハ

氣うつのやにをとをす

洞房(どうぼう)/妓談(きだん)/繁千話(しげ/\ちわ) 山東京傳

しげ/\野話になぞらへし

當世ひつこぬきのうがち

しつたぶりきいたふうの

あそびの正うつしなり

遊子方言叙 全 田舎老人著

何れもさま御そんし

通書のHしまり也

美地の蠣売 全 蓬来山人著

これも何れもさま

御そんしの書なり



1993/5/9 ver1 PC-VANにUP

1993/5/10 凡例訂正。

1993/8/14 底本を土屋氏蔵書に変更し前面改訂。土屋氏蔵本の朱筆部分と版面に関する注記を付記。

1993/8/19 ver2から朱書、版面に関する注記を削除してオリエント用バージョンを作る。(yushi2_0.txt)


権利関係

 このテキストの機械可読版の作成者は内田保廣です。

 このテキストは土屋信一氏の御蔵書をもとにして勉誠社文庫版(旧東京教育大学蔵本)影印本校訂したものです。

 作成者はこの機械可読版テキストの再配布を妨げる一切の行為を取らないよう申し立てます。

 また、このテキストの加工は自由に行われるべきであると宣言します。

 なお、原作著作権は消失していると考えています。

 もし万が一、原作者、完成年等を御存知の方は、御一方下さい。:-)

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