国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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1695-02-12

蜆縮凉鼓集 凡例(11) 蜆縮凉鼓集 凡例(11) - 国語史資料の連関 を含むブックマーク はてなブックマーク - 蜆縮凉鼓集 凡例(11) - 国語史資料の連関 蜆縮凉鼓集 凡例(11) - 国語史資料の連関 のブックマークコメント


一、此四音を言習ふベき呼法(こほふ)の事。歯音のさ・し・す・せ・そ、是は舌頭中(ぜつとうちう)《したさき》に居(ゐ)て上顎(うはあぎと)に付(つか)ず。舌音の「た・ち・つ・て・と」、是は舌頭を上顎に付てよぶ也。先ヅ、これを能ク心得て味はふべし。

扨テ、濁るといふも其ノ氣息(きそく)《いき》の始メを鼻へ洩(もら)すばかりにて、齒と舌とに替る事はなき也。故に此ノ音を濁る時にも、亦前のごとくに呼ブべし。即チ、「じ・ぢ」と、「ず・づ」との別るゝ事は、自ラ、「だ・で・ど」と、「ざ・ぜ・ぞ」の異なるがごとくに言ヒ分らるゝ也。

次に、はぬる音には必ズ舌の本を喉(のど)の奥(おく)上顎の根に付(つけ)、息(いき)をつめ聲を鼻へ泄(もら)す也。然ルに人、音をはぬる時に多くは舌頭(とう)を上顎に付てよぶ故に【是舌音呼法也】、其後に續(つづ)く音、即チ舌音に移(うつ)る也。譬(たとへ)ば「天上(てんじゃう)」といふがごとき、「天(てん)」とはぬる時に心を付ケて舌頭を中に置て【是歯音のよびかた也】「てい」と云フ様に呼受(よびうけ)て「上(じゃう)」の音に續くれば、歯音に移るに障(さはり)なし。若シ何心なく舌頭を上顎に付ケて、「てぬ」と云フやうによぶ時は、齒音の「上(じゃう)」の音、舌音に移りて「ぢやう」の音になる也。又、「最上(さいじゃう)」といふ時は、始メより舌を中に置キて「さい」とよぶ故に、歯音の移り宣しき也。是齒(し)舌(ぜつ)の分辨(ぷんべん)也。但ダ至りては連續(れんぞく)の上(かみ)の音は引とも、はぬる共、又は舌を中に置クとも、上(うへ)に付る共、それに拘(かゝは)らずして、下の音を舌音ならば舌音齒音ならば歯音に呼ブべき也。猶ホ、心を用ひて言ヒ習ふべき也。

或ル時、友人の許(もと)より是レを尋ねしに、蜆(しゞみ)縮(ちゞみ)凉(すゞみ)鼓(つゞみ)《けんしゆくりやうこ》の四字を書キて、遣はせしかば、其ノ後は彼ノ人遂に此ノ書の名と成しぬ。唯ダ、五韻相通・兩行不通の道理を辨へて、「ゑぼし」を「よぼし」とは言フべからず、「えもぎ」は「よもぎ」と言フべしと云ヒて、爭(あらそ)はんよりは、美濃(みの)國(くに)関(せき)の藤川(ふぢかは)を東海道(とうかいだう)の富士川(ふじかは)に紛らはさぬ樣にし給ふべきなり。



参考文献

橋本進吉「国語に於ける鼻母音」

亀井孝「蜆縮凉鼓集を中心にみた四つがな」

高山知明「蜆縮凉鼓集からうかがえる前鼻音要素の一局面」

高山知明「十七世紀末の前鼻音の実態について

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