国語史資料の連関 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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1693-02-27

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右の図、梵文に准らへて作れり。西域記に諸仏説法音声、中天竺に同しといへり。韻鏡序にも。胡僧反切の妙を中華の僧に伝ふといへり。此胡僧といふは。いにしへ胡国天竺のわかちをわきまへざりし時、天竺をも胡国といひける故。後に能わきまへても。猶昔に准らへて。梵僧を胡僧といへるなり。東寺の悉曇、中印度を伝へて。南天竺を兼たり。山門は南天竺を伝ふ。南天は中天に次で。東天北天よりも音韻詳雅なり。中天は漢音おほく。南天は呉音おほし。仮令達磨は法の梵語梵字にては〓達〓磨かくのごとし。東寺にはこれを「たらま」とよみ、山門には「だるま」といふ。禅宗の初祖達磨大師。台家の伝に呼来れり。これに付て、漢音ならば「太都麻《たつま》」。呉音ならは「駄都麻」【念珠の母珠を駄都麻といふに習ひある事なり】とこそいふべきに、「多羅麻」とも、「駄留麻」ともよむ事は、梵語の習ひ、下の字の上に半体の羅字ある時は、必らす上に入声の字を用る理あり。〓羅此半体は、上の〓《ラマ》の上に加へたる〓かくのごとし。羯磨【中天きゃらま南天けるま】薩〓【中天さらば南天さるば】此等の類也。〓《ダ》は本濁音の字なれば。実には東寺の伝も「駄羅摩《ダラマ》」といふべきを、此国にてはきゝよからぬ故に、清てよみ来れるは、故実なるへし。昔も平群《ヘグリ》氏を称謂あしとてきらへる事あり。思ひ合すへし。

「駄留麻」も聞なれたれはこそあれ。艶《エン》なる人は用意あるべく。けたかゝらぬことばなり。点を加へて女声によめぽ。達弭《タラビ》・達迷《タラメイ》・達謨《タラボ》など、皆東寺なり。これまた清《スミ》ていふ事上のごとし。山門には、駄留弥《ダルミ》・駄留迷《ダルメイ》・駄留謨《ダルボ》とよむべし、日本には真言宗独り陀羅尼のために悉曇を伝ふる故に。学はぬ宗までも。かやうの名目猶残れり。中華には。密教失たれば、悉曇をも知らぬ故に。名目さへ失たり。新渡の禅侶の達磨大師を駄茂《だも》といふにて知へし。本朝にては耳を驚ろかす事なり。彼方の人は又此方にいふやうを聞て驚ろくへし。

仏陀と菩提と梵字は同しけれども、音の転ずるに依て、義も随ひて異なり。混同すべからず。此国にて。「使を使ふ」・「舞を舞ふ」といふに准らへて知べし。又中華は晩宋に至りて。天下を半は金人に奪はれ。終に蒙古《むく》のために全く奪はれて、元朝となりぬれば。北狄の音に変じて、わろく成たるにや、韻会・字彙等を見るに。玉篇なとの音にたがひて。某切。音《こゑ》某とあるに。切と音と叶はぬ事おほし、然は某切といへるより、音の訛たる事あるへし。本朝は昔より和漢の人をめして音《おん》の博士《はかせ》を置かせたまひて、伝へ来れる声。呉漢今に替らず。又梵字によりてたゞすに。疑かはしき事のみなり。仮令阿の字を「を」とよむ。「を」は「あ」の第五転にて。梵字の躰全く別なり。〓阿〓遠かくのごとし。歌の韻の字を虞の韻の音によむ事、心得かたし。〓《あ:からす》の字はからすの「あゝ」となく声によりて作れり。今の烏とても、「をゝ」とはなかざれば。是を証としても誤を知へし。陀羅尼を誦ずる者、阿闍梨の伝授を経ずして恣に誦ずれば、声字を誤まり。章句を誤まりて。効験なくして却て罪を得《う》る事あり。さるによりて越法とて仏大きに誡しめ給へり。此に准らふるに、和歌は神仏にもたむくる物なれば。殊に仮名をたゞして。ことわりにそむかぬやうにすべし。

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