音符

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音符

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国史大辞典 築島裕

 音符解説文字の補助符號の一種。

言語の音を示す爲めに、假名の如き音字に添へて、又は音字と共に用ひられる符號。我國 に於ける音符の主なものは次のやうである。

濁音符】 濁音を示す爲めに清音假名の右肩に加へるもの。「ガ」「ギ」「が」「ぎ」など。これは漢字音四聲を示す爲めに漢字の四隅に加へた聲鮎(四聲参照)から出たものである。聲點平上去入四聲の違ひに随つて、漢字の左下の隅から順次に、右まはりにそれ/゛\の隅に。又は○○をつけるもので、字音清濁に随つて、清音には○を、濁音には○○(連濁の場合には8)を加へた。この漢字の聲鮎を假名にも加へて、日本語四聲清濁を示すに及んでは、清音には●を、濁音には●●を用ひた。さうして、日本語には平聲上聲とを區別したが、去聲は極めて稀であつた爲め、假名聲點假名の左側の下か上かの隅につけるのを常とした。然るに後には四聲に拘はらず、濁音のみを區別する事になり、濁音を示す二點のみが用ひられたが、室町時代には、これを右側に移して用ひるやうになつた。しかし一方、漢字濁音は。。を以て示した故、漢字でも二點のかはりに。。を用ひるものもあつた。室町末から江戸初期に、濁音を示すに三點を右肩に附けたものも現れたが(三河物語の如き)、これは。。から轉化したものかとおもはれる。

 江戸時代に入つてからは、現在と同じ形が普通になつた。(しかし、この時代にも假名に。。をつけたものは全く無いではない。類字假名遣など、その例である)。

 【半濁音符バ行音を示す爲めにハ行假名の右肩に加へる○符。これは江戸時代初期以後のものに見えて、それ以前には無い。初は主として吉利支丹關係のものに見えるのであつて、その後貞室の「かたこと」などにもあるが、やはり外國語を寫したものに多い。普通に用ひられるやうになつたのは、明和頃以後かといふ。○は清音四聲を示す符號として用ひられたもので、室町時代にも、特に清音によむべき事を示す場合に用ひた例があるから、それと多少關係があるかも知れないが、外國語に多いところを見れば、新に工夫したものかも知れない。

促音符】 促音をあらはす符號で、現今では「ッ」又は「つ」を小さく傍によせて書く。促音は、上代日本語にあつたかどうかは疑問である。平安朝にはあつたものと思はれるが、多くの場合には、これを文字に書きあらはさない(「貴し」を「たとし」「以て」を「もて」など)。しかるに鎌倉時代に至つては、だん/\これを「つ」「ッ」で書きあらはすことが起つて來た。これは多分漢語に於て「ほつしん」(發心)、「ぶつぽふ」(佛法)などの場合に、「つ」を促音發音する事から起つたのであらう。室町時代以後は一般に、促音には「つ」「ッ」を用ひるやうになつたが、しかし、文字の上では促音でない普通の「つ」と同様で、これと區別する事はなかつた。江戸時代の半以後になつて、平假名の文に片假名のッを小書して促音を現すものが見え、促音を示すッが普通の「つ」と區別せられるやうになつたが、しかし、あらゆる場合に用ひらるゝに至らず、今日でも特に發音を示す場合に用ひられるだけである。

撥音符】古く撥音を表はすべき特別の文字又は符號なく、後に「ン」「ん」の文字が出來たが、いろは歌五十音にも收められず、その音も純粋の國語には音便の外にはあらはれない故、これを普通の假名とせず、音符の一種として撥音符と呼んだことがある。しかし、現今は假名として取扱ふのが普通になつてゐる。(片假名平假名撥音参照)

長音符音節中の母音を長く發音する事を示す符號。古くから母音をあらはす文字をつけて長音をあらはす事があつたが(催馬樂譜「安太良之支以〓〓〓止之乃波安〓〓之女爾也」など)かやうな形式は、江戸時代に於て普通の書にもまゝ用ひられ、平假名の文に母音だけを片假名で書いて添へたものがある。「かゝア/\」「めエリやせう」。又古くから「引」の字を下に書いて、長音をあらはす方法があつたが、(古事記「阿阿禅引志夜胡志夜」催馬樂譜「安之加支引〓〓〓〓末加安〓支引以」など)これも江戸時代には普通の文に、時に用ひられた。

「ふあ引とわらひける」「呑たくは五合とつてかう引」など。又ーを以て示す方法がある。江戸時代から、外國語をあらはす場合に用ひられた。チヤーウ島、へーメル、アールドなど・これは今日に於ても、外國語又は外來語を書く場合に多く用ひられる。新井白石東音譜に於て、1を字の右側につけて長音を示す方法を擧げてゐるが(アイウエオ)、實際には行はれなかつたらしい。

【反覆音符】同じ音が繰返してあらはれる事を示すもので、躍字(をどりじ)とも稻する。現今、假名一字の揚合は「Σ」、二字以上の場合は「く」を用ひる。これは漢字の反覆符から出たもので、同じ漢字が繰返される場合に、その漢字を再び書く代りに、「々」を用ひ、又古くは「二」の字を右によせて小書した。この「二」を草騰で書いたものから「≧」の形が出來、これを假名の場合にも用ひたが、それが更に略されて「、」となつたもののやうである。又二字の漢字が反覆せられる場合に、例へば「頓首頓首」の代りに「頓二首二」と古くは

書いたのであつて、これを草書に書く場合には「頓ζ首二」と書くべきを、まづ「頓首」と書いて次に「首」の右肩にζをかき、それにつづけて「首」の下に「玄」を書いたのであつて、それが一層簡単になつてしの形となり、それより次第に「く」となり、位置も、後の漢字の次に書くやうになつたのである。「二」及び「Σ」は、平安朝初期から假名と共に用ひられ、「/\」も、平安朝假名文にその原始の形が見えてゐる。

【其他の音符】以上の外、江戸時代小説類には、がぎぐげごを以て、田舎のガ行音(多分nga ngi ngu nge ngoに對して、gagigugegoを示すものであらう)を、さを以てッァの音(「おとつざん」など)をあらはすものなどあるが、一般には用ひられない。明治以後、特に發音を明示する場合にnga ngi ngu nge ngoをガギグゲゴ又はガギグゲゴで示す事がある。vavivuvevoをブギ

ヴ、アブで示す事もあるが、あまり行はれない。但しヴから出たヴァヴィヴヴェヴオは、かなり一般的に用ひられてゐる。なほ古く、漢語語尾のng音を表はすため、レ又はMの形を用ひたことがある。

【参考】本邦音符考 吉澤義則(國語國文の研究所收)

同文通考 新井白石

濁點源流考 吉澤義則(國語説鈴所收)

          〔橋本〕

書籍からの画像で注記のないものは、著者の著作権が切れ、刊行後五十年以上経っているものである筈です。