柴田よしき『桜さがし』

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柴田よしき『桜さがし』

柴田よしき

小説

関西方言会話

桜さがし (文春文庫)

桜さがし (文春文庫)


p.24

「その、ぜ、言うのやめ」

「なんで」

「気色悪いがな、東京弁なんか」

「しょうがないだろ、俺、高校からずっと東京だもの。親父の転勤で中学出たと同時に東京に行ったんだぜ、もう十年だ。言葉だって変わるよ」

「明石家さんまは変わらんやないか」

「あいつらは商売じゃんか。俺なんか、高校入った時、関西弁使うってだけで結構、ヤキ入れられたりして苦労したんだから」


p.61

 まり恵は女性言葉が綺麗な標準語なのに気付いた。観光客だろう。

p.99

 一ノ瀬は東京出身なので、京都育ちの綾の耳には堅苦しく聞こえるような言葉を遣う。



p.145

 思いがけず関東弁で、店主らしい髭を生やした男が訊いた。


p.181

「あのおばさんが教えてくれてん。よそから来たお客さんには、舞妓しか使わんような言葉がウケるねんて」

「舞妓の京言葉は吉原の花魁言葉と一緒なんやで」

「どういうこと?」

「だからな、吉原に売られて来る女の人達は、ほとんどが田舎から買われて来た人達ばっかりやろ。外様と呼ばれた江戸から遠い国ほど、幕府の間諜を恐れて、自分たちの国の中だけでしか通用しないような言葉をみんなに使わせたんや。そのせいで、お国訛りいうのが出来た。売られて来た女の子はみんなひどい訛りで喋ってたわけや。そうすると、第一に粋やない。花街は粋を大事にする。それと、訛りで国がわかると、同郷の客とねんごろになり易い。女郎同士も訛りで喋ると国を思い出していつまでもメソメソする。そんなこんなで、お国訛りを使うのを禁止し、その代わりに吉原の中だけで使われる言葉を教えたんや。それがまた、粋やいうんで客にはウケたんやな。ただの女郎やない、吉原の花魁を買うんや、いうのがステイタスになった時代やからな。それと一緒や。舞妓も京都出身より地方から来る子の方が多いやろ。せっかく舞妓を座敷に呼んだのに、京都とは縁もゆかりもない訛りで喋られたら興ざめやんか。そやから、舞妓には花街流の京言葉を教え込んだ。舞妓はいずれ水揚げされて襟替えし、芸妓になる。そして頃合が来たら引退するが、多くは料理屋したりなんやかんやで水商売に残る。その人達は、教え込まれた京言葉でそのまま商売する。そやから、水商売には独特の京言葉が残る。そやけど元々それは、京都女性が普通に使てたんとは微妙に違う言葉なんや」

「観光客が感動する京言葉は、演出されたもんなんやね、初めっから」


p.288

「アホなこと。あ、陽ちゃん、関西弁になった!」

書籍からの画像で注記のないものは、著者の著作権が切れ、刊行後五十年以上経っているものである筈です。