松下大三郎『改撰標準日本文法』

国語史・日本語史周辺(日本文学・日本史・言語学などなど)の覚書です。
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松下大三郎『改撰標準日本文法』

松下大三郎

http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/PDF/matusita/kaisen/

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1225783

緒言

一 私は少年の頃、当時最も世に行はれて居つた中等教育日本文典【落合小中村両先生合著】とスヰントンの英文典の二書を読んで其の体系の優劣の甚しいのに驚いた。英文典は之を一読すれば和英辞典さへ有れば曲りなりにも英文が作れる。然らば英米人日本文典英和辞典とを与へれば日本の文が作れるかといふと、そうは行かない。これ実に日本文典の不備からである。そう思った私は僣越ながら自分が日本文典の完成に任じようといふ志を立て、明治二十六年の夏飄然として東都遊學の途に上ったのてあった。

二 私は考へた、人間の思想の構成上に絶對不變の根本法則が有るならば思想を表す言語にも其の構成世界に一般なる根本法則が無ければならないと。

 勿論各國語には各特殊の法則が存するが、其れは皆一般的なる根本法則に支配される所の特殊法則である。故に一國語文法は一般理論文法學の基礎の上に行はれなければならない。私の日本文法研究の主義は專らこれであった。

三 されば私の過去三十餘年間の研究は最も多く文法學の體系に注がれた。かくして漸く今日此の書に見る樣な状態に到逹したのである。此の書の體系は他人から見れば約らないものと見えもしよう。勿論完全なものではない。しかし一朝一夕に得たものでなく、徒勞も多かったであらうが、背後に多年の努力が潜んでゐるのである。

四 私の研究に於て最も早く氣附いたことは、助辭品詞の一つとすると所謂る單語論と文章論とで詞の概念一致しないといふことであつた。明治三十年に中學教程日本文典といふ一書を刊行したが、其れにも助辭品詞外になつてゐる。當時は誰一人賛成する人がなかった。その後故三矢重松博士は助辭品詞外にして高等日本文典を書かれた。今日では賛成者が非常に多い樣である。

五 日本接續詞副詞であるとは山田孝雄氏の高論てある。私は之を繼承し更に之を徹底せしめて世界接續詞は皆副詞の一種であるといふことを主張するものである。自著「漢譯日本口語文典」も第五版からこの主義で訂正した。

六 口語動詞終止格は第三活段ではなくて第四活段であるとは三矢重松博士の發見である。この主義でなければ國語の沿革が説けないし、この主義ならば文語口語活用圖が略一致する。私は博士の説を取つて「漢譯日本語文典」を訂正した。しかし博士の「高等日本文法」は此の主義で書かれて居ないから人は博士の功を知らないであらうと思ふ。特にこゝに一言する所以である。

七 之の書の前身たる「標準日本文法」は大正十三年の十一月の初刊である。今から見ゐと、わかり憎い處煩雜な處などが有る樣に思はれるから、今回全部書き直した。それがこの「改撰標準日本文法」である。

八 此の書には私の始めて考へ出した事柄が非常に澤山有る。そういふ處へはなるべく落ちない樣にその項の始めへ□印を附けて置いた。一家言のしるしだと解すれば謙遜の意になるが、亦勿論著者の得意な所である。

九 私は明治三十二年に「日本俗語文典」を發表した。邦人の著としては日本口語文典の嚆矢である。その所説の中には今日から見れば不満足な點が澤山有る。それらは一切この「改撰標準日本文法」で訂正する。

十 私は昨年十月「標準漢文法」を發表した。本書の姉妹編ともいふべきものである。若し幸に私の漢文法に對する意見を徴せられるならば一覽を賜はりたいと思ふ。

 著者識 



はしがき

一 この書は、大正十三年の十一月に始めて刊行し三囘ばかり小修正を施して來たのを、昭和三年四月に至り思ひ切つた大修正をする爲に全部を書き直して改版し書名へ改撰といふ文字を冠して刊行したのであるが、今囘また若干の小修正を加へ昭和五年訂正版と名づけるととにした。

二 昭和三年版が始めて刊行された時、ほゞ同時に松尾捨治郎氏の國文法論纂安田喜代門氏の國語法概説とが世に著れた。この二書は眞摯なる態度を以て多年研究された蘊蓄の發表であつて、國語學有數の名著であることは學界の認むる所である。されば私のこの昭和五年版にも、この二書から得た知識を取り入れた處が三四箇處有る。

三 昭和五年版の冊行に先だつて、今年二月私は標準日本口語法を發表した。標準日本文法文語を主とし口語を從としてあるから、口語だけに就いては標準日本口語法の方が詳しい。世の口語研究家の一瞥を煩したいと思ふ。

四 本書に用ゐた假名遣の中、「こう」「そう」「まう」の三つは國定教科書などと違ふ。私は「かう」「さう」「もう」ではないと思ふ。その理由は「こう」「そう」に就いては本書第九六頁に論じてある。「まう」が「もう」でない理由は「まう一度」などの「まう」は「今」であり、「まうだめだ」などの「まう」は「今は」であるからである。

 昭和五年四月 著者

第一編 總論

 第一章 言語

  第一節 言語本質及び諸相

  第二節 説話構成の過程

 第二章 文法學

  第一節 文法學本質及び諸相

  第二節 文法學の體系


第二編 原辭論

 第一章 原辭の性質及び分類

  第一節 總説

  第二節 完辭

  第三節 助辭

  第四節 不熟辭

 第二章 原辭の活用

  第一節 總説

  第二節 完辭の活用

   文語完辭の活用

    四段活

    上二段

    上一段

    下二段

    下一段活

    ナ行變格

    ラ行變格

    サ行變格

    カ行變格

    動作性特別變格

    クシク活

    形容性特別變格

   口語完辭の活用

    四段活

    上二段

    上一段

    ラ行變格

    サ行變格

    カ行變格

    特別ラ行變格

    特別サ行變格

    動作性特別變格

    クシク活

    形容性特別變格

     完辭の活用文語口語對照圖

  第三節 動助辭活用

   文語動助辭活用

    下二段

    ナ行變格

    ラ行變格

    動作性特別變格

    クシク活

    ニ活

    ト活

    形容性特別變格

   口語動助辭活用

    下二段

    特別ラ行變格

    特別サ行變格

    動作性特別變格

    ク活

    ニ活

    ト活

    形容性特別變格

  第四節 接尾辭活用

    四段活

    上二活

    上一段

    下二段下一段活

    下一段活

    クシク活

  第五節 古文の第六活段

  第六節 特殊活用

  第七節 原辭の結合と音緩急の變化

  第八節 原辭の結合と略音

  第九節 連辭の單辭化と約音


第三編 詞の本性論

 第一章 詞の大別

  第一節 品詞

   本性論

   詞の本性

   品詞

   複性詞

   所謂る助詞助動詞

  第二節 名詞

   事物の槪念

   內包と外延

   代名詞體言

   連詞的名詞

   無格の名詞と有格の名詞

  第三節 動詞

   判定性

   形容詞用言

   活用

   連詞的動詞

   特殊態の動詞

  第四節 副體詞

   名詞との別

   動詞との別

   歐語文典の形容詞

  第五節 副詞

   接續詞

   前置詞

   名詞との別

   動詞との別

  第六節 感動詞

  第七節 詞の分類に於ける各品詞の地位

  第八節 詞の第二次的分類

 第二章 詞の小別

  第一節 名詞の小別

   名詞の四種

    本名詞

    代名詞

    未定名詞

    形式名詞

    代名詞の批判

   本名詞の小別(其一)

    普通名詞

    固有名詞

    模型名詞

   本名詞の小別(其二)

    相勁名詞

    絶對名詞

   代名詞の小別

    人稱代名詞

    位置代名詞

    種々の代名詞

   未定名詞の小別

    不定名詞

    疑問名詞

   形式名詞の小別

    第一種の形式名詞

    第二種の形式各詞

  第二節 動詞の小別

   動作動詞形容動詞

   分主性動詞と合主性動詞

   歸著性動詞と非歸著性動詞

   他動性動詞と自動性の動詞

    他動の四種

    意志的他動と自然的他動

     他動態と自動態

   依據性の動詞

   出發性の動詞

   與同性の動詞

   一致性の動詞

   生産性の動詞

  動詞の四種

   本動詞

   代動詞

   未定動詞

   形式動詞

  本動詞の小別

   記號動詞

   象形動詞

   模型動詞

  形式動詞の小別

   助動詞

    一、無活用動詞を受ける助動詞

    二、第二活段を受ける助動詞

    三、「て」を受ける助動詞

    四、主客語を受ける助動詞

   寄生形式動詞

   接頭形式動詞

  第三節 副詞の小別

   實質副詞副詞の小別

   歸著副詞(前置詞)

    前置詞の辨

    接續詞

     胃稱接續詞

     接續詞品詞目に非ず

    接頭副詞

  第四節 副體詞の小別

  第五節 感動詞の小別

  第六節 變態品詞の小別

   變態名詞

    動詞名詞

    副體詞名詞

    副詞名詞

    名詞性再名詞

    複雜な變態名詞

   變態動詞

    名詞動詞

    副詞動詞

    動詞性再動詞

    複雜な變態動詞

   變態副詞

    名詞副詞

    動詞副詞

   變態品詞品詞

  第七節 從來の品詞別との比較


第四編 詞の相

 第一章 總説

 第二章 名詞の相

  第一節 尊稱

   自體尊稱

   所有尊稱

   主體尊稱及び客體尊稱

  第二節 卑稱

  第三節 複數と例示態

  第四節 特提態

  第五節 歸著態

  第六節 表現

   表示態

   叙述

   指示

   喚呼態

 第三章 動詞の相

  第一節 使動

  第二節 被動

   人格的被動

   可能的被動

   自然動的被動

  第三節 可然態

  第四節 尊稱

   主體尊稱

   客體尊稱

   所有尊稱

   支配尊稱

   對者尊稱

   尊稱の交錯

  第五節 卑稱

  第六節 莊重態

  第七節 利益態

   他行自利態

   自行他利態

   自行自利態

  第八節 完全動

  第九節 肯定否定の相

   否定の實質化

   無效の否定

  第十節 既然態

  第十一節 時相

   現在態

   完了態

    對抗的完了

    逸走的完了

    一般的完了

    綿密完了

   過去

    「きし「けり」の別

    「し」の誤用

    完了過去

    口語過去

   未然態

    文語の未然態

     格の未然「む」「じ」「まし」の別

     完了未然態

    口語の未然態

   時相複合

  第十二節 推想態

   らむ

   らし

   めり

   なり

   けむ

   けらし

   推想と時相

  第十三節 完備不完備の相


第五編 詞の格

 第一章 總説

 第二章 名詞の格

  第一節 表示態の格

   主格

   他動格

   依據格

   出発格

   與同格

   比較格

   連體格

   一般格

  第二節 敍述態の格

   連體格

   一般格

   他動格

  第三節 指示態及び喚呼態の格

 第三章 動詞の格

  第一節 終止

   直截終止

   再指終止

   放任終止

   欲望終止

    命令の終止

     命令と禁止

     對己命令

     格の未然態

     文語の命令終止格の記表

     口語の命令

    希望の終止

  第二節 連體格

  第三節 方法格

   同主と異主

   附屬的と對等的

   方法格の記號

   特殊の形態

   方法格の完了的意議

   「て」「して」と動詞

  第四節 中止格

  第五節 狀態格

   狀態格と副詞

  第六節 拘束格

   文語の拘束格

    從來の説明

    確定拘束格の小別

    音便及び約音

    「ば」の接續上の制限

    確定拘束格の發生

    未然的意義

    「ませぱ」と「ましかば」と「せば」

    拘束格の完了的意義

    「ぱ」の無い狗束格

   口語の拘束格

    未然假定拘束格

    現然假定拘束格

    偶然確定拘束格

    必然確定拘束格

  第七節 放任格

   文語の放任格

   口語の放任格

    假定放任格.

    確定放任格

  第八節 一致

   事物の一致

   状態の一致

   動作一致

   生産の一致

  第九節 生產格

  第十節 一般格

 第四章 副詞副體詞感動詞の格

 第五章 格の間接運用

  第一節 格の實質化

   運用格の實質化

   終止格の實質化.

   一般格の實質化

    動詞の依據格

    動詞の他動格

    動詞主格

  第二節 格の提示

   題目態

   係の提示態

    「や」「か」の別

    特提態

  第三節 格の感動態

   文語の感動態

   よ や ぞ かし な も は か をや か ゑ い を やし よし ろ

   口語の感動態

  第四節 格の含蓄


第六編 詞の相關論

 第一章 連詞の成分

  第一節 成分の統合關係

  第二節 五種の成分關係

   主體關係

   客體關係

   實質關係

   修用關係

   連體關係

   舊來の成分説

   成分關係の層

  第三節 成分關係分類の理論

 第二章 成分の統合

  第一節 主語と敍述語

  主語の材料

   名詞主格

   名詞の一般格

   副詞

   動詞主格

  敍述語の材料

   固有の用法

    動詞 敍述態名詞

   詞の分主化

    大小の主語

   詞の合主化

  第二節 客語と歸著語

   客軆關係の連詞

   歸著語の材料

    固有の用法

    詞の歸著化

    詞の非歸著化

  第三節 補語形式

   實質關係の連詞

    補語形式語の代表部

   補語の材料

   形式語の材料

    固有の用法

    詞の形式

    詞の實質化

  第四節 修用語と被修用語

   修用語と被修用語

   修用關係の連詞

   修用語の三大別

    平説的修用語

    提示語

    從句(終止的修用語)clause

   平説的修用語の材料

   提示語の材料

    題目語及び其の材料

    係語及び其の材料

    特提語及び其の材料

   從句の材料

    感動詞より成る從句

    名詞の喚呼態より成る從句

    名詞指示態より成る從向

    動詞及び名詞の敍迹態より成る從句

     感動的從屬

     歸著的從屬

     説明的從屬

     對等的從屬

   被修用語の材料

   修用語と斷句の種類

    題目語と有題斷句

    從句と連斷句

     複文、單文の辨

  第五節 連體語と被連體

   連體關係の連詞

    連體關係の三種.

   連體語の材料

   被連體語の材料

  第六節 統合關係の單複

 第三章 成分の排列

  第一節 意識流の方向

   正置法

   倒置

    倒置の二種

    倒置法の制限

  第二節 成分の間接關係

  統合關係の性質に基く排列

  複層從属語に於ける概念の新舊

  題目語

   論理學的主語文法學主語とは違ふ

 第四章 成分の照應

  第一節 係結法

   通常の係結

   特殊の係結

    無形の係結

    變態の係結

    複對の係結

  第二節 未然法

   有形の夫然法

   無形の未然法

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