新増韻鏡易解大全

国語史・日本語史周辺(日本文学・日本史・言語学などなど)の覚書です。
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2020年1月末に消えるそうですが、移転先は未定です。

新増韻鏡易解大全

http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/kokusyokaidai/s2/kokusyo_si232.html


岡井慎吾『日本漢字学史』

 韻鏡開奩の次の時代を代表すべきは新増易解大全で有る。この書は一たび韻鏡易解として出したのを増補したものであるが、改版後五年にして再板して居るほど盛に行はれた。大して卓見の有る書では無いが博く手際よく纏めたからだらう。著者盛典は武藏國日出谷邑龍谷山の僧で、晩年には下野國佐野大聖院に居たらしい。

  韻鏡易解

  韻鏡字子列位

  新増韻鏡易解大全

  九弄和解

  倭語連聲集

  印判祕訣集

の六種を撰し、連聲集の序に七十二老沙門と署して居るから老いて愈々壯なりしを知られる。

 韻鏡易解元祿四年(二三五一)に出てから二十八年(正徳四年「二三七四」、又享保三年「二三七八」再板)にして新増韻鏡易解大全が出て居る。新増といふのだから増補せられたは無論だが、其の内容も殆ど改められて易解?の上卷本末が新増の卷三・四に、下卷本末が亦卷一・二に廻って居る。易解?の序によると盛典の學は法印光榮?に出で書中の玄微の説は皆師授だと有るが、韻鏡に洪字を出して紅字を出さぬは洪字が正律に協った爲(廣韻に洪戸公切と出して紅は其の字子、この場合何れに音切を附けるかは韻書を作る人の自由で其の字と字子との間に正律と否との相違は無い)だなどの僻説は誰に起ったらう。又文字の畫數によりて

 一畫-乾 二畫-兌 三畫-離 四畫-震 五畫-巽 六畫-坎 七畫-艮 八畫-坤 (八畫以上は八の倍數を引いた殘り)

などの奇説もある。

 韻鏡字子列位は、韻書を有たぬ者は韻鏡に出て居らぬ字の扱ひ方に困るから韻書によりて其の同音字を摘出したもので、毎轉を韻に、韻を同音に分ち、各字には極普通なるを附す。韻鏡易解六卷といふ時は此の二卷が其の末に附く。元祿十二年(二三五九)版。

 九弄和解玉篇の尾にある九弄反紐圖を解したもので享保十五年(二三九〇)版、寛保元年(二四〇一)重校本。二卷に分れて上では「九弄反切?の本體を究め定むる事」など八個、下では「雙聲疉韻?を問決す事」など三個の題目を立てゝ説明し、梵文?をも引用して居り、又十紐?を更に増して十二紐?と立てゝ居る。

 倭語連聲集元文二年(二三九七)板行。先づ悉曇連聲の法あるを述べて倭語にも亦之あるを證したもので直接に韻鏡には關して居らぬ。此く連聲に共通の事實あるを證せんとて和州室生寺の記に大日本國を大日ノ本國と點したるを擧げて大日尊の法身は此國に出興したまひ密法私通の爲に天竺に流行せられたのだと云っている。

 印判祕訣集享保十七年(二三九二)に成りて後十二年にして出板せられた。この時盛典は既に九十四の高齡だったが此の出板を見たりや否や。首に釋迦如來親手の華判(は義淨三藏?が取經の爲に渡天の際に得たものをわが建長寺の竺梵仙?が摸印して傳へたもの)を出した後、三國に印判?あるを云ひ、印判?を區別して印は實名を彫刻せる著、判は陰陽の書印(花押)と佛家の四曼の形相とをいふものとし、七點六大を釋し、その作り樣や折紙の認方に及んで居る。蓋し盛典は連りに印度悉曇を擔ぎ出すだけありて音韻に對しても一隻眼を有したりと見えて拗音にも左の進歩が有る。

 開奩  アイヤウワ イウヰ   ウイユ   エイエウエ ヲイヨウオ (異説略す)

 袖中抄 アイヤウワ イイヰウイ ウイユウウ エイエウエ ヲイヨウオ (この書のこと、下に)

 新増?  アイヤウワ イイイウヰ ウイユウウ エイエウエ ヲイヨウオ

 そも/\韻學祕典韻鏡開奩韻鏡人名の撰定に用ひらるゝやうに述べて居ることは上にも引いた。この觴を濫べるほどの水が滔々として天をも浸さんばかりになるとは誰も想像だにしなかった事だらう。蓋し好名を以て一生を祝福したいは人の常情だから、初は物ずきが有りて韻鏡に通じた人に其の撰定を請うた位だったらうが、之が世の流行となりて撰定の料金が提供せられるやうになれば韻鏡を扱ふことは賣トや冠附?沓附?の點者?と同じく一種の體のよい職業となりて幾多の孔糞先生?をして斯の道に進ましめたものと想像するも不可なからう。享保十一年に僧漣窩韻鑑古義標注出でゝ名乘撰定を擯斥するまで正に一百年の間は韻鏡に關するあらゆる撰述は悉く名乘撰定に關するを或は名乘撰定を勿體づけるを奧義として張氏の序例?に屋上に屋を架する解釋を下したものに過ぎぬので、盛典のは其の重なるもので有る。


韻鏡易解改正重刻

書籍からの画像で注記のないものは、著作権法上の「引用」の範囲内であるか、著者の著作権が切れて刊行後五十年以上経っているものである筈です。