仮字遣奥山路

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仮字遣奥山路

石塚龍麿

かなづかひおくのやまみち

   假字遣奥山路 寫本二巻 石塚龍麿

 萬葉、記紀の中に、字音を借りて國語を寫したる漢字五十音順に集めて、其の用法、慣例等を歸納したるものなり。寛政十年戊午〔二四五八〕九月十九日稻懸大平の序あり。

 ◎石塚龍麿の傳は「古言清濁考」の下にあり。

http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/kokusyokaidai/k1/kokusyo_ka073.html

http://www.let.osaka-u.ac.jp/~okajima/uwazura/syomokukaidai/ka/kaidai_ka027.html

假名遣奥山路 三巻

 石塚龍麿著。寛政十年頃の作と思はれる。刊本には古典全集所收のものがある。本書は古事記日本紀萬葉集を初め奈良朝時代の諸文献によって當時使用の音標文字用法を精しく研究したものである。即ちア・イ・ウ以下の假名の大部分は同音のものは相通じて用ひられるがエ・キ・ケ・コ・ソ・ト・ヌ・ヒ・へ・ミ・メ・ヨ・ロの十三音の假名が實際に於いて判然と使ひ分けられてゐることを記したものである(猶古事記にはチ、モの二音が加はる)。總論の初めに記すところによると、本書は古事記傳中の所論を基として著したものである。その所論中には今日から見れば缺陥不備はあるがこれによって上代の音韻組織に關する研究は一大礎石を得たものと言ふ可く、又語源語學その他用言活用等に關する問題にも光明を與へるものであらう。

【參考】

* 國語假名遣研究史上の一發見橋本進吉 「帝國文學」二三ノ五。

* 上代に於ける特殊假名遣本質望月世教 「日本文學論纂」所収。

【末書】

* 「古言別音鈔」寫本一巻。草鹿砥宣隆著。童蒙の為め簡單に「奥山路?」の十三音の假名に關するものゝみを説き示し、語を五十音配列したもの、

亀田次郎国語学書目解題」)

假名遣奥山路 語學書 三卷

著者石塚龍麿成立寛政十年稻掛大平の序がある故、それ以前。

諸本】寫本は宮内省圖書寮藏本と、東京帝國大學國語研究室?舊藏本(大正十二年燒失)の轉寫本二三とがある。「古言別音鈔」(後出)所引のものは語句に小異がある。或は異本があるのであらう。昭和四年日本古典全集に收められて刊行された。

解説】 上代萬葉假名用法を研究したものである。本居宣長が「古事記」の假名を調査した結果、同音假名でも必ずしもすべての語に用ひられず、語によつて一を用ひて他を用ひないといふやうな定《きま》リがあることを見出したが(例へば、ミの假名に「美」と「微」とあるが、神の意のカミのミには微を用ひて美を用ひない)、龍麿はこの説に基づき、廣く上代文献に於ける萬葉假名用法を一々の語について調査し、その結果、エキケコソトヌヒヘミメヨロの十三の假名(「古事記」だけは更にチモを加へた十五の假名)に於て、これに宛てた萬葉假名が各二類に分れて、同類のものは相通はして用ひるが、異類のものは相通ずることなく、その何れを用ひるかは語によつて定まつてゐることを發見し、且つ右以外の假名に於ては、かやうな類別なく、同音のものすべて相通じて用ひられてゐることを確めた。又全體としては、同音のものすべて相通じて用ひられる假名でも、或る特殊の語に於ては、これに用ひる文字の定まつたもののある事(國名のカヒのカには甲を用ひる如き)をも明かにした。本書は、かやうな研究の結果を述べたもので、最初に總説ともいふべきものがあり、次に萬葉假名の表があつて、萬葉假名五十音別とし、同音のものを更に「古事記」「日本紀」「萬葉集」と區別して擧げたが、同音假名用法上二類に分れてゐるものは、二類にわけて、各類の下に一々「通用」と註してある。本文は、如何なる假名が如何なる語に用ひられるかを示したもので、五十音の順序で「あ」「い」「う」以下の諸部を立て、各々の部には、その音を含む諸語をあげて、その語に如何なる萬葉假名を用ひるかを註し、且つ古書に於ける實例を擧げたもので、同音中二類の別あるものは、二類に分つて、各々その類の假名を用ひる語を擧げてゐる。

【價値】從來、萬葉假名を調査したものはあつたが、それは、ただ同音に讀むものを集めただけであつて、如何なる語にいかなる萬葉假名が用ひられてゐるかを一々調査したのは、假名遣上問題となつたイエオ、ヰヱヲ、その他少數の假名に過ぎなかつた。本書に至って、はじめて、あらゆる假名について、一々いかなる語に用ひられるかが精密に調査せられて、多くの萬葉假名の中、互に通じて用ひられるものと、さうでないものとの區別が明かになつたのである。かやうな調査は全く空前のことであつて、實に上代國語音韻組織研究の基礎たるべきものである。その結果として、何人も豫想しなかつた、十三(「古事記」では十五)の假名に於ける二類の別が、上代文獻に存することを發見したのであって、これは契沖が古代の文獻に、イヱオヰヱヲその他の假名の別が嚴然として存することを發見したのに比して、勝るとも劣らぬ功績である。又かやうな事實の發見は、上代文獻の研究、ことに、本文批評語義語源解釋成立年代の鑑別等に一の新規準を加へたのみならず、また上代國語に、從來考へられてゐるよりも多くの音の區別の存在を推想せしめるものであつて、その影響は甚だ多く且つ重大である。然るに、本書は、その内容が趣めて新奇であるのに、説明があまり粗略に過ぎて解し難く、研究の資料と方法とに不備な點があつて、比較的多くの例外を出したため、人をして容易に信ぜしめ難く、ためにその眞面目は久しく覆はれてゐたが、近年になつて漸くその眞價が認めらるゝに至つた。【末書】本書の研究を簡明に示したものに「古言別音鈔」(寫本一卷)がある。草鹿砥宣隆(補遺)の著で、かの十三音の假名以外は總て省き、萬葉假名の表を簡單にし、語をすべて五十音順に排列して檢索に便したものである。

【參考】國語假名遣研究史上の一發見 橋本進吉

 (帝國文學二三ノ五)         〔橋本〕

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国史大辞典 阪倉篤義

書籍からの画像で注記のないものは、著作権法上の「引用」の範囲内であるか、著者の著作権が切れて刊行後五十年以上経っているものである筈です。